2023-09-01から1ヶ月間の記事一覧

仮想世界 ①

サイエンス・フィクションの領域は広いとはいえ、たいていの場所では物理法則が成り立つ。考えてみれば当たり前で、物理法則をわざわざ破壊するには、そうするだけの理由と説明が必要だからだ。そしてそうするだけの理由とは、おそらく二つ。物理法則そのも…

宇宙空間 ➄

宇宙生物モノ、とでも呼べばいいか。とにかく奇想天外な生命体(のようなもの)を考え、その生態を記述するというサイエンス・フィクションの一分野がある。その中では、ライフスパンが長すぎたり物理的実体を持たなかったり、個体という概念があいまいだっ…

宇宙空間 ④

宇宙空間という場を、単純な物理法則に支配される単純な世界だと定義しての話を、これまで数回にわたって続けてきた。サイエンス・フィクションの多くの割合がそういうイメージを利用していることは疑いようもないが、宇宙のもうひとつの側面についても一応…

宇宙空間 ③

世界のあらゆる複雑さを内包しているのが宇宙という空間であるにもかかわらず、宇宙と通常呼ばれるのは、非常に単純な場所である。というのも普通宇宙と言えば、この宇宙の全空間から、人類が暮らすこの地球の表面を除いた場所のことを指すからである。 昨日…

宇宙空間 ②

宇宙とはわたしたちを包み込むもっとも大きな空間であるから、そこには理屈上、ありとあらゆるものが存在しうる。したがって原理上の話をすれば、宇宙空間を舞台にしてしまえば、およそ物理的にありうるすべてのものごとをサイエンス・フィクションとして記…

宇宙空間 ①

サイエンス・フィクションの題材として辺鄙な村という舞台がいかに適しているかということについて、この日記では長々と一週間もかけて書いてきた。そろそろ書くこともなくなってきたころだし、ここはひとつ、べつの舞台について書いてみることにしよう。 宇…

村 ⑦

このジャンルだけに限った話ではないかもしれないが、サイエンス・フィクションはよく世界をめちゃくちゃにする。作者がそうしたところで読者はそれを自然だと感じることができ、その理由といえば、科学や魔法といったたぐいのものはそれだけの絶対的なパワ…

村 ⑥

進歩という観念の非存在と、それによる絶え間ない現状維持。サイエンス・フィクションの舞台としての古代の村を成立させるいちばんの要因が、その手の不変性である。 そこの住人は現代人とちがい、あらゆる意味での諸行無常を信じない。無常であるかどうかと…

村 ➄

科学という概念を持たない古代人は文明人とは違い、伝承や呪術やその他もろもろの非科学的なものごとを信じることができる。だれも進歩を目指さず、季節に応じた一定の周期で同じ生活を送り続けるかれらは現代人と違って、世の中の不変性を素朴に信じ続けて…

村 ④

科学的には矛盾の多いアイテムを登場させるために、それが引き起こす矛盾をだれも気にしないほどに原始的な村という舞台を用意する。サイエンス・フィクションがおそらく意識的に常用している、創作上のテクニックである。 現代にそういう村は多くない。だか…

村 ③

原始的な生活をいとなむ村に、ぽつりと置かれたタイムマシン。呪術と科学の区別はなく、物語と真実の区別もなく、ありえない言い伝えを本気で信じるかれらは、それをどう扱うだろうか。 それが過去あるいは未来とつながっていることを、かれらはきっと知らな…

村 ②

サイエンス・フィクションの世界と言われたときに最初に思い浮かべるような、ステレオタイプな世の中を想像してほしい。その場所の正体は未来の地球かもしれないしほかの星かもしれず、あるいは異世界かもしれないが、とにかくサイエンスという意味で、現代…

村 ①

サイエンス・フィクションということばを文字通りにとらえれば、それはサイエンスを題材にしたフィクションである。サイエンスであるからにはなんらかの科学が描かれている必要があり、そしてそれがフィクションであるためには、描かれる科学はなんらかの意…

物語の起承転結のうち、いちばん本質的なのはどこだろうか。この問いにはさまざまな答えがあるし、どの答えにもある程度納得のいく理由をつけることができる。けれど純粋な分量の話に限って言えば、いちばん文字が多いのは間違いなく「承」の部分だろう。 物…

起承転結

物語には起承転結が必要だとよく言われる。序破急とかいうのもあるらしいがここでは置いておく。とにかくその言わんとするところは、物語の各部分には話の中での役割があるということで、そのどれかが欠けてしまえば話はつまらないものになってしまう。 とい…

生体幕府 ⑧

「……核ミサイルを撃ち込みます」沈黙に耐えきれず、マットは答えた。 もちろん、納得のいく答えではなかった。たしかに母国には核兵器があるし、それを撃ち込むための優秀なミサイルだってあるが、こと核に関する場合、問題は明らかにそこではない。 「本気…

生体幕府 ⑦

「えっと……そちらのほうが便利だから、でしょうか」虚仮にされると分かっていながら、マットは将軍の質問に答える。 「またつまらない回答をありがとう、米国大使。理由なんてどうでもいいと思ってたところに、輪をかけてどうでもいいことを教えてくれるとは…

生体幕府 ⑥

「幕府開闢以来、この国はつねに進化し続けてきた」世界のすべてを見下しているかのようないつもの口調で、将軍は話し始めた。 「その原動力が何なのかはさすがに言うまでもないな、米国大使マット・タイソン。お前が祖国でまともな教育を受けてきたとはまっ…

生体幕府 ➄

「お前は国外追放だ」、と将軍は半笑いで言った。 徳川幕府第二十二代将軍・徳川家星。みずからのロボトミー化に執心するあまり政治をおろそかにしていた先代に代わって、三十代前半の若さで将軍位についた日本の最高位。この国には今どき珍しくほぼ全身が生…

生体幕府 ④

桜田門で馬を降り、マットは城内へと向かってゆく。 江戸城の敷地に、サイバネホースは入れない。前時代的とも言えるその規制は、百五十年前にこの地で起きた、幕府高官の暗殺事件に端を発している。 浦賀沖に現れた四隻の軍艦を生体兵器によって爆破し、大…

生体幕府 ③

江戸と言う無秩序な都市にありながら、この首都高速道路には、たった二種類のものしか存在しない。 ひとつはどこまでも不規則にそびえる、摩天楼や雑居ビルである。免震ウナギの群れががっちりとその足元を支えるそれらのビル群は、この地震の多い土地にあり…

生体幕府 ②

摩天楼に挟まれた高架道を、馬が、駆ける。 関東ローム層のやわらかい赤土が敷き詰められた、幅七メートルの道路。そこを、馬が、数えきれないほどの馬が、色とりどりのたてがみを思い思いにたなびかせながら、六列縦隊で、流れるように走り抜けてゆく。 首…

生体幕府 ①

その船は、これまでに見たどんな船よりもデカかった。 アメリカ東インド艦隊司令長官・マシュー・ペリーを載せた真っ黒な船。未知の動力で動くその四隻の巨大戦艦は、まるで蒙昧な列島に振り下ろされた鉄槌のように、海原からこちらを睥睨していた。 隣に立…

暗記と背徳感

なにかの役に立てるためにものを覚えるのではなく、暗記することそれ自身が目的になっているとき、暗記とは楽しい行動である。マニアックすぎる英単語や現地人しか知らない街の名前など、こんなものを覚えたところできっとなんの足しにもならないと思いなが…

目的としての暗記

暗記は嫌いだと昨日は書いた。とくに脈絡のない、覚える以外にどうしようもない暗記作業は。けれど過去の記憶と現在の知識を掘り返してみれば、その例外としていくつか思い至るふしがある。必要もないのになぜだか覚えたくなった、役に立たない暗記事項が、…

暗記の習慣

小学生という、いまよりはるかにたくさんのことを覚えていかなければならなかった年代において、暗記の好きでなかったわたしは困っていた。月並みな表現だが、生物も化学も地理も公民も、すべてが算数のような必然性を、あるいは完璧に編纂された歴史のよう…

国当て

最近、Geoguessr というゲームを始めた。知らないひとのためにざっくりと説明すると、ストリートビュー上で世界中のランダムな地点に落とされるから、周りの景色の情報を駆使してその場所を特定しなさい、というゲームである。 もともと地理は好きなほうだし…

丸暗記

専門課程に進んでからというもの、わたしにとって勉強とは、数学をすることを意味している。より詳しく言えば、数学の教科書や論文を読んでそこに書かれている理論を理解し、最終的にはその論理展開を脳内に構築して、なにも見なくても再現できる状態を目指…

勝利至上主義

運動会に勝ち負けをつけるのをやめよう。徒競走も廃止して、運動の喜びだけを児童には感じさせよう。子供に競争意識を植え付けるのはよくないという理由でそんなことを叫ぶひとが現れ、それが賛否両論を巻き起こしたのは、たぶんもう十年以上まえのことにな…

読書趣味 ②

本の世界は非常に広い。これは本には無限の可能性があるとか、素晴らしく豊かな世界を表現可能であるとかそういう思想的な意味ではなく、単純に、数が多い。たとえ人生のすべての時間を読書に充てたところですべての本を読み切るのは不可能だし、そんなこと…