2022-12-01から1ヶ月間の記事一覧

...and you?

How are you? と聞かれたら、I'm fine thank you, and you? と答える。中学校で一番最初に習う例文だけれど、よく考えるとなかなか難しいことをやっている。 まず How are you? からして大変だ。直訳すれば「あなたはどのようですか」になるわけだが、そんな…

I'm fine thank you

「I'm fine thank you とネイティブは言わない」――日本の英語教育を非難したいひとはときに、こういう言説を唱えているらしい。わたしはその現場を直接見たわけではないのだが、こう主張するひとを非難する文脈で言及されるのをよく見ている。 わたしはネイ…

情報欠落 ②

「長老の言うことももっともだと俺は思うよ。 というか、そう思うのが普通だよな。人間はこれまでずっと、顔を突き合わせて会話してきたんだから。文字だけじゃあなにも伝わらないかもしれないって可能性は、俺も最初から考えてた。文字を作ろうと考え付いた…

情報欠落 ①

「みなの衆、本日はよくぞ集まってくれた。こうして寄合に出て壇上でみなの顔を見るのが、一年でいちばんのわたしの幸せじゃ。嘘でも誇張でもないぞ。こうしている間にも若者衆は退屈して、いずれ飲んだくれて喧嘩なんかをおっぱじめるもんだが、それがまた…

英語はなかなか滅びない

英語をとりまく状況を AI はたしかに変えた。自動翻訳はかなり正確になってきたし、音声認識もだいぶ進んできた。けれどもやっぱり、まだ物足りない。英語をまったく使わなくても済む世界へはまだ、機械はわたしたちを連れていってくれそうにはない。 誰もが…

英会話をやめるには

自動翻訳はついに、英語で書くという作業からわたしたちを自由にした。新しい技術が革命を起こすちょうどその過渡期に英語論文を書き始めたわたしは、書くという行為の変化を身をもって体感するおそらく最後の世代になった。わたしたちはまだ自力で英文を作…

世界語がなくなるまで

英語で書かれた数学の証明を、自動翻訳で日本語にして読む。あるいは日本語で書いた証明を、チャットウィンドウに貼り付けて英語にする。厳密性が要求される文章でそんなことをするなんて、五年前なら絶対にやってはいけなかったことだ。けれどもいまでは、…

過渡期の機械たちに

最強の棋士でも AI には勝てない。いまや疑いようのない事実として、そのテーゼはそこにある。囲碁では実際に対局が行われ、人類は残酷なまでに鮮やかな敗北を喫した。将棋は対局を拒み、結果として趨勢は、実際の戦いを経ないままに決定してしまった。みず…

もう英語を使わなくていい

英語でわたしは、おそらくいま AI に勝てない。どこか特定の部分では勝てているかもしれないけれど、総合的に見て機械のほうが英語が上手いということには疑問の余地がない。わたしが勝てている数少ない部分だって、優位を保てる自身はこれっぽっちもない。…

汚言規制

だれかがだれかの愚痴を言っているところを見て、こちらまで不快な気持ちになる。自分のことを直接言われているわけではなければ、遠回しに責任を追及されているわけでもないのに、なんだか恥ずかしくて居心地が悪くなる。そんな経験はきっと、だれもがした…

金曜日、二十三時過ぎ

都心から郊外へと、夜に揺られる下りの列車。金曜日も二十三時をまわっているから、帰宅ラッシュはその余韻を残すのみだ。全員が座り切れるわけではないとはいえ、都会の人間からすればそれでも「空いている」の範疇に入る車内は、どこか浮足立った疲労に包…

幸せな怒り

怒っているひとを見るのは面白い。そのなかでも、持てる語彙力を総動員して世の中のすべてを相手に怒鳴り散らしている様子は、爽快と呼んでいいものだろう。だれもが互いを気遣って生活する世の中もけっして悪いわけではないが、ときにはやはり、ことばの暴…

安全な暴言

こう書けばなんのことかは分かってもらえるだろうが、ひとが悪口をぶちまけているところは見ていて楽しい。特定の誰かへ向けた中傷ではなく、世の中のすべてに対する罵詈雑言ならなおさらだ。暴言の内容とは無関係に、とにかくすべてをバカにしつくしている…

繊細と怠惰の共通点

繊細と怠惰の違いとはなにか、と問うてみようか。なにを馬鹿なことを、と思われることだろう。繊細と怠惰とではもう、向いている方向が百八十度違うじゃないか。どちらもひとの性格をあらわすということ以外なにも共通していないと、きっとあなたは思うだろ…

怠惰も罪

繊細さとは克服すべき弱さである、そう昨日は書いた。些細なことで傷つく精神性は、もし持っているなら修正すべきであると。他人に押し付けるような考えではないとはいえ、すくなくともわたし個人は、そう志して生きようとしている。 志すというとなんだか意…

繊細さは罪

繊細さは罪だとわたしは思っているようだ。度を越しているとは言い難い中傷でいちいち傷ついたり、多少センシティブな画像を見るだけで再起不能になったりするのは、基本的に傷つく側が悪いのだと。そしてそのようななにかがかりにわたしの心を傷つけたとす…

大人を舐めるか

高校生の不自由といえばたいてい、不条理な校則のことだろう。身だしなみ関連の諸々をはじめとして、基本的にそれらに存在意義はないらしい。らしい、と伝聞調で言ったのはこれが文字通り伝聞情報に過ぎないからで、というのもわたしの母校は良いことに、そ…

理不尽

自分の意志とは関係なく、とらされる授業の数々。興味もなく、将来的になんの役にも立たないことの分かり切っているものごとを、できるようになれと言われる日々。不健康なほどの朝の早さ、机に倒れ伏す時間のためだけに乗らされる満員電車。興味のない行事…

ある生徒の文句

「古文漢文なんてやってる暇があったら、もっとこう、人生の役に立つことを高校で教えればいいんじゃないんですかね。確定申告のこととか投資のこととかですよ。知ってると知らないとではその後の人生が大違いなのに、なんで教えてくれないんですか。学校教…

多重締切駆動

神代より語り継がれし人類普遍の真理、締切がなければひとはなにもできない。事実歴史上、数えきれないほどの人間が、いつかやると言ったことを結局やらずに死んでいった。しかしながら真理とはまた、打ち破られるためにあるもの。この法則を打ち破らんとす…

かわいそうの比較 ④

わたし個人の感性の話をしよう。わざわざこんなことを書こうと思ったきっかけの話でもある。わたしの思う「かわいそう」が、おそらく世間一般で言われる「かわいそう」と、なんだかずれているらしいということだ。 わたしがもっともかわいそうだと思う死は、…

かわいそうの比較 ③

大人の死を、わたしたちは受け入れられる。つらい出来事とはいえ、折り合いをつけられる。とくにその情報が、特に個人的なかかわりのない人物の訃報だったのなら、ひとはきっと興味も持たないだろう。「ひとりの人間が死んだ」という統計情報以上の価値を、…

かわいそうの比較 ②

命の価値に差があるというのは公然の秘密だ。命の選択はよくないと誰もが口にはしつつ、実際のところ選択は行っている。そもそも、差がないとしきりに叫ばれている理由は、そこに差があるからでしかありえないわけだ。差を設けているという事実に目を背けて…

かわいそうの比較 ①

凄惨な事件があった。秘密裏に済まされるような事件ではなかったし、難しいトリックがあるわけでもなかったから、ことの真相はすぐに明らかになった。メディアの利害にかかわるような事件でもなかったから、犠牲者の情報はすぐに、全国民の知ることになった…

サボってる

暇かと思えば忙しく、慌ててみるとやることはない。締切があるから仕事を減らし、期日間近に寝転がる。予定のどれを終わらせるのも本気を出せば簡単で、けれど本気は大切だから、なるべく出さずに済ませたい。すべてのことをまったりと終わらせ続けてはや数…

序論に期待せよ

まず死体を転がせ。小説業界で言われているらしい格言のひとつで、意味は要するに、ツカミは重要だという意味だ。物語の最初になにかひとつ、ドカンと面白いシーンを持ってこい。それで読者の心を掴めるかどうかで、そのあとの展開に対する期待がまるで変わ…

まず死体を転がせ

まず死体を転がせ。近年の小説業界には、こんなことばがあると聞いたことがある。ミステリ小説では文字通りの意味だろうが、これはべつに、ミステリに限った話ではない。ミステリにおける死体に類するものをなにか、物語の最初に配置せよという意味だ。 その…

本当に頭のいいひとは

本当に頭のいいひとは、素人にもわかりやすく説明してくれる。長らくのあいだ市民権を得てきたその考え方がまったく詭弁にすぎないことは、いまどきだれでも知っている。 どういう意味で、それは詭弁なのか。そんなこと、あえて語るまでもないかもしれないけ…

ゴミ拾いと承認欲求

海外のスタジアムで、日本人がゴミを拾った。試合が終わり、浮足立った感情の余韻がまだずっしりと残っているのにも関わらず、かれらは現場のための行動をした。その様子を海外のメディアが撮影し、美しい行動として記事にした。その記事を日本メディアがか…

承認欲求を礼賛せよ

十年前、承認欲求とは恥ずべきものだった。不特定多数の人間からもらう反応なんて、自慢するようなものではなかった。画面の向こうの存在にひとが承認を求めるのは、現実から逃げている証拠だった。現実世界ではだれにも構ってもらえないからこそヴァーチャ…