2022-11-01から1ヶ月間の記事一覧
科学はけっして、万人に開かれてなどいない。万人に開かれた科学などというものが、作ろうとして作れるものなのかどうかはさておき、とにかくやつらにそうする気はない。そりゃあ、そうだ。そもそも科学とは、わたしたちのような、都合の悪い真実に気づいた…
論文を出しなさい。出してそれが正しければ、科学はかならず認めるでしょう。科学にはそのための仕組みがあります――あたらしい発見を埋もれさせず、価値のあるものを世界が確実に知ることができるようにする、そのためのネットワークがあります。査読と学会…
科学の矛盾は、目覚めたわたしの目には明らかだけれど、他のひとにとってはそうではない。民衆のほとんど全員は依然、メディアに騙されっぱなしだ。わたしたちが親切心から真実を教えてあげたところで、やつらは完全に洗脳されてしまっているから、聞く耳を…
わたしだけが真実を知っている。自分の頭で考えるから、分かるのだ。嘘と真実を見分け、真実だけを信じることが、わたしにはできる。ごく限られたものだけが、世界のほんとうの姿に気づいている。 世の中のほとんどのひとは真実を見ようとしない。かれらはメ…
「○○は××だと科学的に証明された」「○○の仕組みを科学が解明した」――何気なくインターネットを眺めていると、ときおりこんな文面が目に入る。記事を開けば中身は研究の紹介で、どこの研究チームがどういう実験をしてどういう結論を出したのかが、素人にもわ…
「○○は××であることが科学的に解明されました」――漫然とインターネットを眺めていると、こんな言い回しを目にすることがある。ふーん、と思った勢いで何気なくページを開くと、そこには研究のあらましが書かれている。○○の正体はこれまで知られていなかった…
未来は変えられるとロマンチストは言う。あたらしい技術の開発によって、あるいは世界全体の協調によって。未来は変わってしまうとリアリストは言う。あたらしく開発されてしまった技術が、現在の習慣を揺るがし、置き換えてしまうことによって。国家や国民…
長かった冬の時代が終わり、冷笑主義の天下がやってきた。社会そのものを嘲笑うという選択は、いまやきわめて正当な態度になった。熱血、純情、希望。テレビから、ネットから、それらの忌まわしき感情は消えようとしている。そして素晴らしき冷笑の潮流が、…
話をまとめよう。多様性の素晴らしさと広く呼ばれるものは、おおまかにふたつに大別される。ひとつは、権利としての多様性。すべての場所にすべてのひとが、みずからを定義する属性に影響されることなく足を踏み入れられる、その権利の重要さだ。 権利として…
多様性とはきわめて神聖な目標で、なににもまして必ず達成されなければならない。無条件で素晴らしいものであるところの多様性は、いついかなる場合であっても、歴史の正しい側に立っている。究極の多様性というユートピアは、万人の目指すべき目標だ。そし…
権利としての多様性について、本質的に語るべきことは少ない。人種や性別をはじめ、みずからの意志では容易に変更することのできないそのほかすべての性質から、ひとは完全に自由であるべきだ。それらの性質はだれかがなにかになるということを一切阻害して…
現代は多様性の時代だ。街をあるいていて外国人を見かけるなんてことは、いまどきもう珍しいことではない。コンビニに行けばさまざまな国籍の店員が会計をしてくれるし、大学院の講義はけっこうな数、英語で行われている。家庭では共働きが当たり前になり、…
いつどこでのことだったかはもう思い出せないけれど、算数だったか数学だったかの授業で、先生がこんなことを生徒に問うた。それなりに頭の良いところに通っていたから、きっとその場のだれもが答えを出せるどころか、なぜそんなことを聞くのか訝しみすらし…
この日記をはじめたのは去年の三月だった。はじめた経緯はいまとなっては思い出せない……なんてことはもちろんないが、もうどうでもよくなってきているというのもまた事実だ。当時はたしかになにか熱い想いがあったと記憶しているけれど、風呂と情熱は時間が…
わたしが小学生のころ、世の中にはゲームの攻略本なるものが出回っていた。その名の通り、市販の特定のゲームの攻略情報をまとめて、一冊の分厚い本に仕上げたやつだ。だれもがインターネットを使える現代ではなかなか考えにくいことだけれど、十五年前には…
英語ができれば、世界中のひとと話ができるじゃない。話をして、世界中に友達をつくれるじゃない。住む国が違えば性格も違うし文化も違う、ふとした考えが全然違う、その違いを自分自身の肌で感じることができるじゃない。見える世界が広がれば、それだけ人…
一昨日までの旅の途中、つねにつきまとっていた問題がある。得意ではないし使いたくもない道具を、使わなければならない状況がある。そう、英語だ。正確に言えば、英語のリスニングとスピーキングだ。 海外では英語を避けて通れない、その事実に異議を唱える…
愛すべき日常が戻ってきた。これでようやく自室にこもり、椅子に座って画面を眺めつづけられるのだ。寝床から布団を引っ張ってきて膝にかけ、あたたかい服も着て、窓を閉め切って冬と関係を断つ、この堕落した日常のなんと素晴らしいことか。 論文の締切も終…
特に問題が起こらなければ、明日の今頃には家に着いている計算だ。海外という特殊な環境で過ごす時間も、実のところ日本にいないくらい割と普通のことなのだと薄々感じているこの状況も、もうそろそろ終わりになる。なんと言われようがこれは特殊な経験なの…
二時間目の授業が終わると一目散に校庭に飛び出し、十五分間の休みにドッジボールを満喫していたあの頃の元気はもう、わたしにはない。なにもわたしだけから行動力が失われたとかいうわけではなく、わたしのまわりにいる誰にだって、ない。大人とは基本的に…
疲れた。 とはいえこの数日間、これといってなにか大変なことをしたわけではない。バスで移動して、しかるべき場所に座ってぼーっとして、バスに乗って帰るだけ。たまに英語でスタッフのひとに話しかけたりはしたけれど、まあそうたいした時間でも労力でもな…
小学校のグラウンド。全校生徒が集められ、クラスごとに二列に並んでいる朝の八時半。前から後ろへ、そして向かって右から左へだんだんと高くなっていく頭の位置が、この群衆の中にやけに整然とした印象を与えている。直立不動ということはけっしてないし、…
二時間目の授業が終わると一目散に校庭に飛び出し、十五分間の休みにドッジボールを満喫していたあの頃の元気はもう、わたしにはない。なにもわたしだけから行動力が失われたとかいうわけではなく、わたしのまわりにいる誰にだって、ない。大人とは基本的に…
おかしい。何もしていないのに、疲れる。ちょっと早起きして電車に乗って、ちょっと手荷物を検査されて、飛行機に乗り込んだらあとはずーっと座っているだけなのに、なぜだかすごく、疲れる。 きっと信じてくれるだろうけれど、本当に何もしていないのだ。座…
おかしい。何もしていないのに、疲れる。ちょっと早起きして電車に乗って、ちょっと手荷物を検査されて、飛行機に乗り込んだらあとはずーっと座っているだけなのに、なぜだかすごく、疲れる。 きっと信じてくれるだろうけれど、本当に何もしていないのだ。座…
これまで当たり前のようにやっていたなにかが禁止されたとき、わたしたちはどうするか。新しい規則といえども普段とは違ってうわべだけのものではなく、実際に強大な効力を持っていた場合、どういうふうにふるまうか。これまでの習慣を守るためにルールを破…
新しい環境に飛び込んで、聞いて知っていただけの景色の実物を見る。これまでの自分にとっては関係のない場所、世界の誰かがよく知らないなにかをやっている場所だったところが、その日から自分の持ち場になる。これまでと違う常識、違う風土に戸惑いながら…
……それは違うだろ。 彼とてなにも、いつもこんな反応をしているわけではない。自分が馬鹿にされたときの反応として、さすがにそれでは間違っている。みずからの容姿のことを笑われて、最初の返事がこれだとは。そんなんだからいちいち馬鹿にされるんだという…
「正気を疑う」ということばは字面に反して、正気という対象を疑うという意味ではない。知っての通りこれは「正気かどうかを疑う」という意味で、つまり疑いの対象は気ではなく人間だ。ネイティブとはこういう表現を理解するのにわざわざ文章の構造を解析し…
「世の中で一番大きな謎とは、人間そのものである」――とある推理小説の中で、探偵の信念として繰り返し語られることばだ。ミステリの例に漏れず優秀なその探偵は数々の難事件を華麗に解決するのだけれど、やはりフィクションの天才の常として欠点があり、長…