宇宙空間 ②

 宇宙とはわたしたちを包み込むもっとも大きな空間であるから、そこには理屈上、ありとあらゆるものが存在しうる。したがって原理上の話をすれば、宇宙空間を舞台にしてしまえば、およそ物理的にありうるすべてのものごとをサイエンス・フィクションとして記述できる、ということになる。

 

 だからといっても、宇宙はあらゆる概念を受け入れるまるきり特徴がない空間である、として規定することはできない。というのは、物語にわざわざ宇宙を登場させるのにはそれなりの根拠が必要だからであって、それでも宇宙を舞台にする以上、その要素はどこかに用いられねばならないからだ。早い話が、たとえばただわたしたちがそこらのスーパーへ買い出しに行くだけの話を書きたいとして、そんなことは地球でやればいいのだ。地球でできることをわざわざ宇宙でやる必要はない。

 

 では宇宙空間を特徴づける要素とは、いったいなにか。

 

 第一に欠かせないのが、その場が厳粛な物理法則に支配されていることだろう。たとえば宇宙飛行士が宇宙船の外に出るシーンにおいて、登場人物たちは必ずきちんと宇宙服を着るかそれと同等の装備をして、身体を船につなぎとめておかねばならない。そうでなければ人体は真空に耐えられず死んでしまうし、慣性の法則に身を任せては行方不明になってしまう。

 

 もちろんそうでない宇宙を記述することはできるだろう。未知の物質が満ちており、それで呼吸も自由な移動もできる空間を作り出すことは、サイエンス・フィクションの屁理屈的想像力をもってすればそう難しいことではない。けれど宇宙という舞台を選択した以上、そういう設定にするためにはまたそれなりの理屈付けが必要であり、理屈の上塗りによって現実味が損なわれることを嫌うのであれば、わざわざそんなことはしないほうが無難である。

 

 というわけで。宇宙はなかば必然的に、死と隣り合わせの空間になる。むしろ、つねに死がとなりにいるという緊張感こそが、宇宙空間という設定が物語に与えるフレーバーである、と言ってもいいかもしれない。ここに第二の特徴がある。そこでひとはすぐに死に、死は完全に無慈悲。

 

 第三の特徴。宇宙とは孤独な場所である。宇宙船に乗れる人数には制限があるし、なにより宇宙船は途中で停泊しない。進行速度によっては、母星との連絡もままならない。情報は光速を超えることができないという物理法則がここでも顔を出し、外と一切の交流のない、完璧に閉じた空間を作り出す。

 

 そしてほんらいは最も開けているはずのこの宇宙空間以上に閉鎖的な空間を作り出せるギミックは、おそらくこの世にはほかに存在しない。