...and you?

How are you? と聞かれたら、I'm fine thank you, and you? と答える。中学校で一番最初に習う例文だけれど、よく考えるとなかなか難しいことをやっている。

 

まず How are you? からして大変だ。直訳すれば「あなたはどのようですか」になるわけだが、そんなことを突然聞かれても困る。会ったばかりの相手がなによりも先に、わたしという存在を定義せよと要求してくる。予測不能の無茶ぶりを受けたわたしは混乱に我を失い、「アイアム、アイアム……えっと……ストゥーピッド?」などと、それはもうどうしようもない自虐を返すしかなくなってしまうわけだ。

 

と言ってはみたものの、もちろん現実にはそんなことにはならない。How are you? に普段のわたしは fine. と返し、困ったように笑って見せる。そうしてこの会話をやめるようほのめかす。わたしに挨拶をしたいというあなたのくだらない目的を達するためだけにわざわざ、このわたしに自分自身の状態を説明させようとしないでほしい。その感情を全力で態度に出すのだ。

 

それでたいていは事足りる。挨拶のプロトコルが完了しないせいで、気まずい沈黙が訪れることはない。というのも経験上、わざわざ How are you? などと聞いてくる相手のほとんどには、挨拶以外のなんらかの目的があるからだ。

 

さて。とはいえわたしが、例文どおりの挨拶をできないわけではない。I'm fine thank you, and you? をわたしは中学校で習い、いまでもちゃんと覚えている。だからその気さえあればわたしは、How are you? と聞いてきてくれた相手に感謝を示し、さらに同じ質問を投げ返すことができるのだ。その返答の意味がよく分かっていなくても、返答に含まれる文法事項がわたしの理解を超えていたとしても、丸暗記していれば関係ない。教科書に載っているとおりに、わたしは喋ればいい。

 

けれどもわたしはなぜだか、そうする気にはなれない。

 

How are you? は慣用表現だ。だからこそわたしはその意味が理解できる。聞いてきた相手はわたしの存在を定義してほしいのではなく、わたしの現在の状態を答えて欲しいのだということを知っている。あるいはわたしの調子すら知りたいわけではなく、単にそう言っておかないとおさまりが悪いと感じているだけかもしれない。

 

だからわたしも、慣用的に答えておけばいい。意味なんて無視して定型文を返せばいい。それは分かっているのだが、なんだかやはり、そうする気にはなれない。背伸びしているみたいで格好悪いのか、相手の調子という興味のないことをわざわざ訊ねるのは気が引けるとか、とにかくそういう理由の複合で。

 

まあべつに、どうでもいいことだ。そんなところを気にするより前に、わたしの英語力にはいくらでも問題があるのだから。