召使 ③

 ってな感じのことがあったので、わたしはいま電器屋に来ている。

 

 わたしの敬愛する祖母の教えのひとつに、家電を買うときは絶対に実物を見ろ、というのがある。どうやら若いころに物々交換サイトでさんざんぼったくられたことがあるらしく、それ以来ネットショッピングを一切信用しないことに決めたらしいのだ。なにも孫のわたしまでその不信感を受け継ぐ必要はないのだが、迷っているうちにどういうわけか、やはり祖母の教えに背いてはいけないような気がしてきた。たっぷり五分ほど考えて(わたしにしてはずいぶん長い時間だ)、わたしは二日酔いの足を引きずって家を出たのだった。

 

「なにをお探しでしょうか?」店に入るなり、やたらと愛想のいい男の店員が声をかけてくる。愛想がいいばかりではなく、声も大きくてはっきりとしている。話しかたはこれもわざとらしいまでにゆっくりで、胸につけている名札の文字まで大きい。距離感も近く、まるでこの段差もない地面でこちらが転んで骨を折るとでも予測して身構えているみたいだ。

 

「はい。ドロイドを探しています」わたしは大声で、ゆっくりと言う。店員の口調に流された形だ。

 

「それでしたら、あちらに」ゆっくりゆっくりと通路を歩き始める店員。その間も、こちらからひとときたりとも目を離さない。やけに距離が近いし、曲がり角にさしかかるたびに、こちらですよ、とか、気を付けてください、とか声をかけてくる。二日酔いのわたしを心配してくれているのかな、それにしても遅すぎてもどかしいな、とわたしは思いながら、それでも素直に彼のあとをついていく。わたしに気があるのかな、それにしてはあまりに不器用すぎるけれど。

 

 一時間にも思える歩みの末にたどり着いたエリアを見て、わたしは思わず失笑してしまった。古めかしいデザインの車椅子が並ぶその場所は、間違いなく介護用品売り場だった。その横には、介護ドロイドがマネキンの老婆をベッドからゆっくりと起こすデモが繰り返し行われている。

 

 つまりわたしは、介護ドロイドを探しに来たと思われたのだ。彼にとってわたしは、加齢によりあらゆる身体機能が衰えに衰えているのにもかかわらず、最新のアンチエイジングで見た目だけは若々しく保っている、往生際の悪い老婆であった。

 

 わたしに必要なのは介護じゃない。たまに介抱が必要なことはあるけど。

 

 もっとも、どうしてこう思われたのかには心当たりがある。街の電器屋は品ぞろえが悪い。だからわざわざこんなところに来る人間は、考えが古く、ネットを信用していない老人たちだけだ。そう、ちょうど祖母のように。そして老人が必要とするドロイドは介護ドロイドだけだ。

 

「こちらになります」と言って店員が笑顔を向ける。とりあえず口元だけ綻ばせておけば目が悪い老人には区別がつかないだろうと舐め切った、図々しい作り笑いだ。わたしは彼をにらみつけ、驚かせてやろうとその場で思い切りジャンプする。そして背後に回り込んで肩を叩くと、一目散に店内を駆け抜けた。