帰国

 日本に帰ってきた。疲れた。向こうにいるときはそれほどでもなくても、いざ帰ってくるとやはり、身体に来るものがある。

 

 海外によく行くひとならみな感じていることだろうが、原因はだいたいふたつのうちのどちらかである。ひとつ、向こうではいろいろと精神的に張り詰めており、日本に帰った瞬間にそれが切れる。知らず知らずのうちに溜まっていた疲れを、見慣れた土地に安心した瞬間、初めて身体が認識するというわけだ。そしてもうひとつ、単純に移動そのものが長く、体力を消耗する。

 

 後者の疲れかたはいたしかたあるまい。とくに空港では、飛行機に乗り遅れないように最低限の集中力を持続させている必要があるし、座席はたいてい普通のベンチだ。荷物検査や出国審査もある。案内に従って搭乗ゲートに向かう道のりは、正確に測ったことはないものの、場合によっては結構遠い。今回はたぶん一キロくらいあった気がする。

 

 旅程のほとんどがただ座っているだけとはいえ、座っているのもやはり疲れる。エコノミークラスならなおさらであり、大して倒れない椅子で睡眠のまねごとをしなければならない。さいわいわたしは時差に強いほうなので、変な時間に寝ることにそれほど抵抗はないが、それでも質の悪い睡眠は嫌いだ。とはいえ移動とはそういうものだし、気兼ねなくビジネスクラスに乗れるほどの豪胆さも持ち合わせていないので、仕方がないと割り切るしかない。

 

 だが前者の疲れかたについては、かなり不服である。

 

 わたしは客観的に見て、歳の割にかなり旅慣れているほうだと思う。今回も道中でこれまでの海外旅行の回数を指折り数えながら、途中で自分が手を開いた状態と閉じた状態のどちらから数え始めたのかを忘れたので最初からやり直した。そんなわたしでも海外では気負うし、治安がいいと分かっていてもスリには気を付ける。先進的なひとの住む土地なのだからたいていのことは大丈夫だと頭では分かっていても、気を張るのをやめられない。

 

 いい加減慣れろ、初めてじゃないんだぞ、と自分に言いきかせはする。日本にいるときのように、自然に気を抜いていたい。でも身体は言うことを聞いてくれない。

 

 というわけでわたしは疲れている。疲れているのに日記を書けているのは、執筆環境がタブレットから、使い慣れた自宅のパソコンに戻ったからだ。手元の板を叩くだけで目の前の大きな画面に文字が表示されるのも、いちいち変換候補を選択しなくても勝手に漢字が打ち込まれるのも、まるで自国の土地のように、えもいわれぬ安心感がある。