召使 ①

 あーーーーーーっ。物足りない。物足りないったらありゃしない。

 

 唐突に叫び出したわたしに、みんなの視線が、まるでスポットライトのように降り注ぐ。

 

「はいはい」と言ってにやにやと笑いながら、確かな手つきでわたしのグラスにチューハイを注いでくるのは、高校からの同級生のミナだ。うちの家系にはアルコールの血が流れていると出会ったときから豪語していた彼女は、他の三人を合わせたよりもたくさんの酒を飲んでいるにもかかわらず、まったく酔っ払う気配がない。いまは「酒は百薬の長って言うでしょ。心が参ったときだって、とにかく飲めば治る!」と適当なことをほざいているが、これが彼女の通常運転である。

 

「こら、ミナ、キョウコを潰そうとしないの」と調子のいい素面の女を諌めるのは、わたしたちの唯一の良心、カオリである。責任感がちょっと強すぎるくらいに強い子で、ほかのメンバーが倒れたときは自分が介抱しなければ、と思っているのか、いつも自分はワイン一杯で我慢し、わたしたちの罵詈雑言を静かに聞いている。彼女が保険に控えてくれているおかげで、わたしたちは後先考えずに安心して飲みまくることができるので、みんな彼女には感謝している。

 

「あーあーつまんないつまんない! 面白くない、あまりに刺激がなさすぎる!!」一方のわたしはといえば、このざまである。ここがハルカの家だということも、この女子会のたびにハルカが隣の住人に文句を言われているということも忘れて、年甲斐もなくわめき散らしている。もっともハルカだってひどいときはひどい。先々週、クレームをつけてくる隣人の側の壁をガンガンと叩きながらハゲとかデブとか叫んでいたときは、さすがのミナも閉口していた。

 

「いいだろお前は! カレシにでも慰めてもらえよ!」ハルカがくだを巻き、ポテトチップスの袋が宙を舞う。隅のテレビでは、ミナの持ってきたロマンス映画がクライマックスを迎えているが、そんなものはだれも見ていない。この乱暴な女子会は、召使に恋した主人の苦悩なんて、そんな繊細なものを受け入れられる状態にはない。

 

「そういう問題じゃないの!」わたしは負けじと叫ぶ。ろれつはとうに回っていない。「カレシなんていたっていなくたって一緒よ! なんの埋め合わせにもなりゃしない!」なんだか周囲の視線が冷たい気がするが、まあ気のせいだろう。そういえばミナがこの前カレシと別れたとか、そんなことを言っていた気がする。

 

「えー、じゃあわたしたちはどうなの? 物足りない?」と優しく聞いてくるのは、カオリ。

 

 ミナやハルカならまだしも、カオリに罵倒で返すのはちょっと申し訳ないような気がするけれど、それくらいで思いとどまれるならそいつは酔っ払いではない。「全然ダメ! つまんない、くだらない! だって毎回一緒だもん! クソみたいな酒で酔っ払ってバカみたいに叫んで………………」わたしは叫び、そして涙が突然吹き出してくる。「ああ、なんでこんなことやってるんだろう……