鉄道の収束 ①

 鉄道網において、東京とはひどく不便なところである。

 

 そんなことはありえない、といまにもツッコミの嵐が飛んできそうだ。なにが不便だ、お前は田舎の鉄道を舐めているとか言われれば都市郊外育ちのわたしはごめんなさいと言って謝るしかないし、東京が不便ならいったい世界中どこの都市なら便利なんだと言われても海外の生活事情を知らないのでどうしようもないのだが、まあそういきり立たずに、だまされたと思ってとりあえず聞いてほしい。あなたがあの忙しい都市・東京にさえ住んでいなければ、あなたにはきっと少しだけ拳を収めて、耳を傾けるくらいの時間と余裕があるはずだ。

 

 まずはじめに、東京の鉄道は便利である。矛盾するようだが、この点はまずはっきりさせておきたい。街を適当にあるけば鉄道駅があり、都心部のたいていの目的地へはそこから一、二回の乗り換えでたどり着けるという環境がいかに恵まれているかは、広く知られている通りである。

 

 だがわたしはなにも、東京という都市において鉄道が不便な手段だと言ったわけではない。それでは主体が逆で、わたしは鉄道というシステムにおいて、東京という都市がダメだと言っている。二十三区の住民以外のだれもが知っている事実だが鉄道網は東京の外にも伸びており、それを使って日本全国津々浦々、さまざまな地点へと赴くことができる。そしてこれは二十三区の住民がだれ一人として理解していないことなのだが、東京以外の人間が鉄道を使うとき、行先は必ずしも東京であるとは限らないのだ。

 

 親愛なる都民様へ。驚いてもいいですが、気までは失わないでください。都民でないわたしたちはなんと、目的地へと向かうために、東京を通過することがあるのです。

 

 手始めにまず、東京以外の例を取って比較してみようか。

 

 とある神戸市民が、個人的な用事で名古屋へ行きたいとする。そのひとは新神戸駅山陽新幹線に乗り、そのまま揺られていれば新大阪・京都・名古屋である。山陽新幹線は新大阪で終わり、名古屋を通っているのは東海道新幹線だけだが、そのひとはわざわざ新大阪で新幹線を乗り換える必要はない。直通しているからである。

 

 横浜市民であるわたしにとって事情は異なる。牛タンでも食べたいと思って仙台に行こうとしたわたしは最寄りの新横浜駅ではなく、なぜだか東京駅に向かう。東京駅というのは東京の中でも地の果て寄りの場所に位置しており、もはや千葉駅と呼んでも差し支えない。新大阪駅がそうなっているように東京でも新幹線が直通してさえいればそんなことをしなくて済むのに、わたしはそのほとんど千葉までをゆらりゆらりと、鈍行で行くわけだ。こんなに馬鹿げたことがあるだろうか?