プロット 最初のリンク

一九八五年、ソビエト連邦最北部の半島にて有名なボーリング調査に従事していた新米技術者が、先輩の悪質ないたずらに引っかかって、凍える掘削杭に耳を当てた。地底から響く重厚な音のなかに、意図をもって発された未知の言語のようなものを彼は聞きあてる。彼はいくつかの声を書き留め、実際に会話を試み、いくらかのロシア語で話しかけすらした。

 

五十年後、インターネットでは奇妙な現象が観測されるようになった。特定のワードで検索をかけると、未知の文字コードで書かれたらしき意味不明のサイトが大量にヒットするのだ。検索エンジンの提供元が原因を調査するもプログラムはいたって正常で、ページ推薦のアルゴリズムに穴はなかった。ネット上のどこかにあるそれらのサイト群は、人類が長い時間をかけて構築したウェブのグラフ構造と、どこをとっても似た形をしていた。

 

それらのサイト群についてひとびとはさまざまに憶測をめぐらせ、否定されていった。どこかの研究所が研究用に構築した内部ネットワークが外とのつながりを持ってしまったという説は、規模が大きすぎることによって否定された。宇宙人からの衛星電波だという説は、応答速度と光速との比較によって否定された。ウェブそのものの中に芽生えた意識であるという説は、いろいろと都合が悪いので否定された。

 

そんな中、ある石油掘削技師が、五十年前に耳の皮を失ったかわいそうな技術者のことを思い出した。彼の手記はネット上に公開されており、そこには地底世界に関する彼の調査結果が書かれていた。彼が聞いたことばとは、地底世界へとアクセスする最初の通路だった――地底のウェブグラフへの、最初のリンクだったのだ。検索エンジンのクローラはそのリンクを踏み、そして巨大な未知のウェブへとたどり着いたのだった。

 

地底語はすでに解読されていた。必然的に、深いボーリング杭など、地底を思わせる施設に赴いて語り掛ける活動が流行した。火山に登り、火口へと話しかけるものもいた。それらは地底人が、地上世界へと干渉する最初の扉になった――そうやって地殻を抜けさえすれば、地上側から道を作り、最初のリンクを貼りさえできれば、地上世界との合併は思うがまま。

 

コントロールされた噴火が各地で相次いだ。地上世界のウェブから取ってきた、地理データがそれには使われた。地面には網目状に亀裂が走り、地上の資材を使って交通網が整備された。地殻は頻繁にひっくり返り、上下の概念はなくなった。こうして地表文明は終わり、地球文明が誕生した。