自動化 ⑦

 社会の完全な自動化ということについていろいろと語っておきながら、わたしはこれまで、完全なる自動化とはどのような状態なのか、はっきりと定義していなかった。

 

 明確な定義を与えなくても議論が進む、というのは、このようなあいまいな議題の良い点である。普段数学をやっているととにかくそう思う。

 

 むしろわたしはこれまで、定義に到達することを目指して話を進めてきたのだ、と言うことさえできる。完全な自動化というのがなにを指すのかということを、それに向けた障壁がなにかということを通じて考えようとしてきたのだ。

 

 話を戻そう。世の中が完全に自動化された、とわたしたちが宣言するために、その社会はいったいどのような条件を満たしているべきだろうか。

 

 もちろんそれは、ひとによって解釈の異なる問いである。数学的なまでに明確な定義を与えようとすれば、それはわたし個人の感想に過ぎなくなる。個人の感想でしかなくなるという問題を無視するためにわたしはこれまで、自動化された社会の姿をあえてはっきりと描いてはこなかったし、描かれているものを例示しようともしなかった。

 

 だから例によって、世界を上と下から抑えてみよう。そもそも無意味である、世界そのものを言い当てるという試みの代わりに、である。

 

 まずは下から行こう。

 

 完全に自動化された世界に最低限必要なものはなにか。その世界が物理的な動作原理のレベルで現在の世界と似たような世界であると仮定するならば、とりあえず個々人の生活必需品は自動で生産され、自動で届かねばならない。

 

 たとえば衣食住に関してはこうだ。洋服は自動で編まれる。無人の畑があって農業ロボットが種まきから収穫までのすべてを行うか、合成食糧工場が大気から食物を合成するかして、それらは注文すればきちんと個人宅に届く。建設機械がひとりでに動き、建材の調達から施工までやはり、すべて自動で行う。

 

 交通網はなかなか分かりやすい。まず最低でも、完全な自動運転は実現される。無人タクシーがそこらじゅうを走っており、だれでも安価に好きな場所に行ける。それはそのまま飛行機かそれに類するものに乗り込み、そのときに国境があるならば海外と呼ばれる場所へ行く。

 

 そしてなにより大切なこととして、わたしたちはだれでも、働かずにその恩恵を受けることができる。通貨というものは廃止されるか、そうでなくても文化的な生活を送るために十分な額の金銭が、勝手に供給される。

 

 とりあえず、それが最低限である。