自動化 ➄

 世界を完全に自動化するために超えるべき一番の障壁がなんなのか、という問いは簡単なようで、考えてみると意外と答えに窮する。現代科学の立ち位置を鑑みるにたしかに障壁なら山ほどあるのだが、そのうちのどれが一番クリティカルなのかと聞かれれば、正直よく分からない。

 

 もっともストレートに答えるならば、それは技術的な障壁だということになる。現状の世界を見れば、そのあらゆる部分を機械化したほうがいいはずのものにまだ、がっつりとひとの手による作業が残っていることが見て取れる。

 

 たとえば食事がそれだ。世の中を完全に自動化するとなればまず、食料生産の自動化は必要不可欠だ。衣食住ということばがあって、それは人間が生きていくのに必要不可欠なものをあらわすことばらしいが、食とそのほかを一緒にしてはいけない。衣は最悪なくてもなんとかなる。住がない人間は普通にいて、ちゃんと生きている。だがかれらだって食べなければ死ぬ。

 

 そしてだからこそ、食糧生産はまっさきに自動化されてしかるべき分野なのだが、世界はそうなりそうにない。そしてなぜそうなりそうにないか、と聞かれれば、食料を生産するというプロセスが、完全なる機械化にはまったく向かない工程の連続だからだ、としか言いようがない。

 

 しかしそれが、人類にけっして超えられない壁なのかと聞かれれば、あまりそんな気はしない。

 

 サイエンス・フィクションの世界と現実世界をしばし混同することをお許しいただきたい。食糧生産の自動化に必要なのはまず農業であり、この自動化は現代技術の延長線上にある。トラクターをはじめとする農業機械なんていうものはずいぶんと昔から運用されているし、最近ではドローンを利用した収穫作業なんていう話も始まった。農業は徐々に機械化されている。

 

 それらを操縦するのは人間である。だが近年では自動運転が実用化されはじめている。それは収穫物や肥料の運搬にも役に立つ。荷物の積み下ろしのできる完全自動ロボットが本当に実現不可能だなどと信じているひとはほとんどいないだろう。収穫物を加工し調理するラインを組むことが、人類を自動化から遠ざける巨大な障壁だと思うひともいない。食べるところまではさすがに自動化しなくていい。

 

 このようにしてパーツごとに見ていくと案外、近未来の工学の技術がきっと解決できると信じるのが妥当なものばかりである。致命的な障壁はどこにも見当たらない。できない理由がないからできる、と断定するのは早計ではあるとはいえ、できないようには見えない。

 

 しかしながらトータルで見ればなぜだか、人間が生活のために働かなくていい未来などというものは、とんでもない絵空事に見えるのである。