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 このようにして人類は、自分たちはいまにも滅びる、滅びると何百年もの間片時も欠かさずに言い続けながら結局こんにちまで元気にそれなりの成功を収めてきたわけだが、その中にはほんとうの意味でいつ滅びてもおかしくないにもかかわらず、その存在を無視されつづけてきたひとたちがいた。

 

 男性、ではない。

 

 いまや十万人にひとりとなった男はそれなりに元気にしている。本来なら抹消対象であるはずの俺たちが生きながらえているのはいざというときに有性生殖ができるように保護されているからだ、と認識している男もいるが、実態は割とそうでもない。男性はただ、これといった理由なく、存在を認められている。

 

 あえて理由を挙げるとすれば、あれでもそれなりにかわいいからである。

 

 人類の構成比の推移に関する先ほどの説明には、ひとつ乱暴な点があった。

 

 男性同士のカップルから生まれた子供の性別はどうなるか。ふたりの親から X 染色体を受け継いだ場合、女の子が生まれる。片方から X を、片方から Y を受け継いだ場合、男の子。そして両方から Y を受け継いだ場合、既存の性別の枠組みではとらえきれないなんらかが生まれることになる。実際には、ほとんどの胎児は「生まれる」前に死ぬし、たとえ「生まれた」ところで、子孫を残せるほどの年齢まで成長することはできない。

 

 だがそのごくごく一部は、とくに大きな病気や障害に苦しむことなく、元気に大人になってしまうのである。

 

 葛城タングステン、三十三歳。身長四メートル八十センチ、体重七百八十キロ。性別未定義。染色体構成 YY。二本の陰茎と四個の睾丸ダブル・ディックス・アンド・クアッド・ボールズ。歩く重金属。男の中の男マン・オブ・ザ・マン

 

 彼――という代名詞で便宜上呼称される存在――は西暦二千七百年現在、すべてがミニチュアになったこの世界でひとり、ありとあらゆる天井に腰とお尻をぶつけまくっている。

 

 両親は生きている。生きているが、普通の男(それでもあらゆる天井に頭をぶつけている)は、こんな巨大な塊を収納できる家に住んでいない。体重五万グラムで生まれた彼がだれの身体も傷つけることなくこの世に出現することができたのは、ひとえに男性が子宮を持たず、胎児をうすらでかい水槽の中で育てるからに過ぎない。

 

 すぐに死ぬだろうとだれもが高をくくっていた。だが彼は死ななかった。バカでかい新生児との奇妙な数ヶ月を楽しもうと考えていた両親は、彼が五歳のときに玄関の扉に引っかかって出られなくなったのを見て、恐れをなして放り出した。