オブジェクティブ ①

 数えきれないほどの黒い点が蠢いている。

 

 いや。それは正確な表現ではない。第一に、蠢いているのは点ではなく、れっきとした体積を持つ物体である。第二に、すべての点が黒いわけではなく、中には茶色、金色、白、ときにはピンクや緑や紫のものもある。そして第三に、あの黒い点の個数はすでに、実際に数えられている。

 

 点群は無秩序である。決まった形はなく、ある一点から離れて端にいくにつれて密度が薄くなってゆく、自然なコロニー形態を形成している。だがある一方向、ちょうど北にあたる方角だけは例外で、一本のまっすぐな線が不自然なまでにきっかりと群れを終わらせている。

 

 その線の反対側に目的のものがある。そこにあるのはやはりいくつもの黒い点、だが大きな群れと違って個数は少なく、密度もまばらである。だが最大の違いは、それらがきわめて秩序だっているということだ。星型、花型、直線と円と楕円。いくつものの幾何学模様が刻一刻と切り替わり、複雑かつ明確なメッセージを伝えてくる。

 

 ぼくたちは五光年の彼方から、じっとそれを見ている。

 

 あのなかにぼくはいない。ぼくは無秩序に蠢く点のひとつではないし、秩序だっているほうでないのは言うまでもない。だがぼくたちの全員がそうでないわけではなく、たとえばいまぼくの隣で熱心に望遠鏡のレンズを覗いている男は実際、あの直線の間際で揺れているという。自分自身を見つけることなんかにまったく興味はない、と言い張った彼は、いまと変わらぬ熱心さで、線の向こうに狂っているという。

 

 そのすべてをぼくは、どこか落ち着かない気持ちで漫然と眺める。

 

 伝説のアイドルグループ、千代田ピアシス。優雅で上品なダンスと放送禁止ギリギリの歌詞で空前の人気を博したそのグループは四年半前、絶頂のさなかに突如解散を発表し、四十人のメンバーが揃って姿を消した。何人かは名前を変えて芸能界に戻ったが、それは解散前の人気を鑑みれば、驚くほど少ない数だった。だれもが不自然に感じ、運営会社の破産から国際的な大規模凶悪犯罪まであらゆる可能性を疑ったが、真相はいまだに闇の中だ。

 

 そしてぼくたちはいま、五年前に行われた、彼女たちの最後のライブに参加している。

 

 チケットを取るのは大変だった。なんと言っても、この日を逃せば二度と生で見ることは叶わないのだ。ダフ屋は市場価格を定価の二十五倍にまで吊り上げたが、それも出た先から売れていた。もっとも、ぼくたちがチケット代に糸目をつけないのはある意味当たり前ではある。二十五倍になったところで、地球からここに来る超高速移動費のほうがよほど高いのだ。