新地球 ①

 あの忌まわしき宇宙バイパスが地球を粉々に吹っ飛ばしてから、だいたい二億年が経った。地球人の子孫であるらしいぼくたちは、記録でしか知らない母なる星があった場所からは二千光年ほどの距離のあるらしい、新太陽系の第五惑星に暮らしている。

 

 歴史の教科書に書いてあったことだけれど、新太陽系、というのはこの星にぼくたちの祖先が移り住んだときに付けた名前だ。住んでいた星を突然破壊され、宇宙船に乗って命からがらこの星に逃げ延びてきた開拓者たちは、頭上から冷たい光を投げかけるあの星を、地球の空に輝いていたらしい恒星になぞらえて「新太陽」と呼んだ。光の色はまるで違ったらしいけれど、何十世代にもわたって宇宙空間を旅する孤独のあとでは、そんなことはどうでもよかったらしい。とにかくそれ以降、かれら開拓者の子孫はこの青白い新たな太陽を愛し、そのもとで生まれ、暮らし、世代をつないできた。

 

 名称といえばこんな話もある。ぼくたちの祖先はこの星――新地球――の存在を、地球が吹っ飛ばされる前からよく知っていたらしい。宇宙の中に自分たち以外の生命を探し出すという、今からすればなんとも暢気なプロジェクトにうつつを抜かしていた人類は、惑星に生物が存在するための条件を考え、それに合致する星をリストアップした。かれらの無邪気な夢の結晶であるそのリストはいずれ、崩壊する地球からの手ごろな避難先の一覧として人類の存続に多大な貢献を果たすわけだが、その偶然についてここでは多くを語らないことにしよう。とにかくそのうちのひとつが、PJ8917290 とかいう無機質な名前を付けられたこの新太陽系の、名前すら付けられていないこの第五惑星だったのだ。

 

 そういえば。さっきぼくは、地球が滅んでから今年で二億年だ、と言った。地球からの距離が二千光年だ、とも。これら「年」という字のつく、ほかのどんな概念ともリンクしていないくせに普通に使うにはスケールが大きすぎて使い物にならない単位を見るたびに、ぼくたちは大昔の、母なる地球のことを思い出すのだ。「年」とは地球が太陽を回っていたときの公転周期であり、それは新太陽系において、新地球が新太陽を公転するのにかかる時間の 1.53 分の 1 倍の長さである。ここ新地球で季節はだいたい 1.53 年ごとにめぐるのだが、それはまさしく、地球と新地球の公転の角速度の比率から来ている。そう考えると、なんだか太古の時代とつながっているみたいで、なんだかノスタルジックな気持ちになってくる。