人間観察

 無事にホテルについた。慣れないバスを乗り継いでいかなければいけないところだったので、まずはほっとしている。

 

 昨日はあんなことを書いたが、とりあえず身の危険は感じなかった。少なくとも、銃が取り出されているところは見なかった。田舎町とはいえ先進国だから設備はそれなりにちゃんとしているし、水道水が不衛生でどうしようもないということもないし、部屋にコーヒーメーカーがあるから湯沸かし器として使えるし、コンセントは日本と型が同じだから持ってきた機器がそのまま使える。あとなぜか市内交通が無料だったし、バスの運転手に乗り換え方法を聞くとちゃんと教えてくれた。

 

 ときおりヤバそうな人々もいた。メタル風のパーカーを着た丸刈りの少年が袖からタトゥーを覗かせながら、バスの座席で力なくうなだれている。長いパーカーにフードを被った姿が、路肩に座り込んで服に顔をうずめている。川にかかる橋の上、歩道が外側に丸くせり出して小さな展望台のようになっているところには、欄干にビニールシートが張られており、その内部こそ見えなかったが、横では灰皿のようなものがくすぶる煙を上げている。先入観で語っていることは百も承知だし、とくに最初の少年なんて朝だから眠かっただけかもしれないが、この国で少しでもそういうのを見ると、全員が薬物中毒者のように見えてくる。

 

 十字架を背負った壮年男性もいた。これはべつに比喩的な表現というわけではなく、文字通りそのままの意味である。垂木を垂直に組んでペンキを塗っただけの粗末な白塗りの十字架を、スズランテープでぐるぐる巻きにしてリュックサックに固定し、わたしの前でバスを待っていた。つねになにやらぶつぶつ言っており、後ろ斜め四十五度を向いていたことから、わたしに直接話しかけこそしないものの聞こえるようには言っているようだった。幸か不幸かこちらはそんな独り言を聞き取れるほど英語ができないので、なにを言っていたのかは全然わからず、ただヤバそうだと思って目を合わせないようにしていた。といっても、ときおり fuck とか bitch とか fight とかだと思われるものが聞こえてきたのを鑑みると、おそらく聖書の暗唱とかではなかったのだろう。ヤバいのでなるべく離れて座った。

 

 とまあ、日本なら変なひとがいるな、程度で済ませる話だが、この国に来ると不安になって、ちょっとヤバいかもな、という気分になる。なるがまあ、ちょっとヤバいかもな、と思うくらいでは済んでいるので、いまのところは大丈夫だ。