人の惑星 ⑧

 この星と地球は、驚くほど似ている。

 

 重力加速度はほぼ同じで、自転周期も二十分長いだけ。直径は同じで、月は三つあるらしいが、地表面の環境に重力的影響を与えられるほどに大きなものはひとつだけ。公転周期こそやや短いが、太陽の色と光の強さは似たようなもので、地軸の傾きは三十二度と、けっしてそうかけ離れてはいない。

 

 方位磁針という概念が通じなかったから、磁極に相当するものはないらしいが、ここの文明はもうそんなことが重要になるような状態ではない。陸地と海があり、足元をゆっくりとプレートが動く。火山はときおり噴火し、灰の雨を降らせる。

 

 もっとも、そのいくつかに関してはそれほど驚くべきことではない。というのも、「天穂」号は行先をランダムに選んだわけではないからだ。気温や太陽からの距離、恒星の軌道観測から導き出された惑星の質量から計算される重力の強さが生存に適しているかどうかは、地球からでも簡単に分かる。そうしたいくつかの候補の中から、大気の組成などのじゅうぶん近づいて初めて得られる情報を集めた航行 AI の総合的な判断によって、降り立つ星は選定される。

 

 つまり降り立ったという事実がある時点で、この星が地球とある程度似た環境であることは決まっているのである。

 

 より驚くべきなのは、ここの人々である。最初のうち、わたしはかれらが生物学的な意味では人間ではないのだということをことあるごとに思い出そうとしていたが、すぐに諦めた。人間ではないと信じるにはかれらはあまりにも人間らしすぎるし、地球ではないと信じるにはあまりにも、この文明は人類文明とよく似ている。似すぎていて、快適に生活できてしまうほどだ。

 

 そしてこの事実のほうは、宇宙船がこの星に着陸したという事前情報からはけっして導かれえないタイプのものだった。

 

 DNA 鑑定らしきものの結果はすぐに出ていた。当然のごとくわたしは遺伝的に現地人とはまったく異なるものであり、どのレベルで異なるのかは言語の壁のせいでよく分からなかったが(件の言語学者も生物学はさっぱりのようだ)、とにかくこの星の生物学を再編成する必要のあるレベルの大発見であるらしかった。そして不思議なのは、当然議論されるべきある疑問について、まったく議論されている様子がないことだった。わたしが同じ状況にあったならば、絶対に疑問に思うはずのこと。

 

 この宇宙人はどうして、俺たちとこんなによく似ているのだろう?