人の惑星 ③

 最初の一瞬、わたしはぱっと心に喜びが弾けるのを感じた。

 

 この星には人型の生物がいる。それが自分でも意外なほどに、たまらなく嬉しかった。目の前のそれが実際には人間ではなく、この星固有の未知の生物であるという単純な事実を忘れたつもりはなかったが、それでも素朴な感情の動きは止まらなかった。行く先に不安を覚えた記憶もなかったが、ここでならやっていける、という根拠のない自信が、こんこんと湧き出してきた。

 

 次いでわたしの感情を支配したのは、理性から来る好奇心だった。地球から百光年以上離れたこの場所の生物がホモ・サピエンスであることはあり得ない。だから、似ているように見えてどこか、異なるところがあるはずだ。最初の一瞬では気づかなかったなにかが。それを見抜きたい、とわたしは思った。未知の環境で好奇心はときに命取りになるものだが、最初の喜びが、宇宙飛行者としての警戒心をすこしばかり麻痺させていた。

 

 というわけで、わたしはその人型生物の子供らしきものに近づきながら、この記念すべき似た者同士のファースト・コンタクトをどうやって始めればいいかを考えていた。数秒考えて、このような場合にもっともよく用いられるとわたしが思っている、あの古典的な方法に頼ることにした。

 

 手近な棒で土の地面に絵を書き、見せる。子供らしきものは、その口らしきものを動かし、声らしきものを発した。わたしは手近な草らしきものを指さし、先ほどの声らしきものを真似てみた。そして、発音が伝わる程度に正しいことを願った。

 

 自分でも驚いたことに、願ったのはそれだけだった。本当は、疑うべきことがほかにたくさんあった――かれらに言語があるのかとか、あるとしてそれが発音と紐づいているのかとか、あるいはかれらが本当に生物であって知能を持っているのか、とか。ここは異星である。地球上での常識は成立しない。あらゆるものを疑わなければならないということを理解こそしていたが、なんだかこのとき、それは些細なことに思えた。

 

 子供らしきもの――ホモ・サピエンスの生態に照らし合わせるなら、十歳くらいの白人の男の子――は、しばし訝し気に(と、わたしが感じる表情で)わたしを眺めた。顔らしきものの上部にはふたつの球体が同じ高さに埋まっており、それは眼球によく似ていた。鼻らしきものはすっと高く、耳らしきものはやや尖っており、そして口らしきものが、言語らしきものを発しようと動いた。

 

 似ているなんてものではない。人間との違いを探すほうが難しい。

 

 その瞬間、わたしはそのことの指す意味に気づいて、ぎゃあ、と悲鳴を上げた。