人の惑星 ⑦

 その日遅くまで、わたしとその学者は話し込んだ。彼の正体をあえて聞くことはしなかったが、この星について知りたいことがあったらなんでも教えるから、と片言の日本語で約束してくれた。

 

 もう疲れたから、と言って船に戻ろうとすると、驚いたことに止められた。かれには今後も頼り切りになるだろうから無下にもできないな、と思って答えずにいると、かれは笑いながら言った。「疲れているのは知っています。だから、今日の調査はおしまいです。ホテルを紹介するので、よく休んでください」

 

 わたしは思う。ひょっとしてもしかしなくても、めちゃくちゃいい星に来たんじゃないか?

 

 翌日、コールドでない睡眠をとって部屋を出ると同じ言語学者が待ち構えていて、わたしを研究所に案内した。「あなたは宇宙人なので、あなたについて知りたいことがたくさんあります。安全なものなので、安心してほしいです」

 

 地球に地球人そっくりの宇宙人が来たときに地球人がどう対応するかを想像すると、そりゃあそうなるな、と思える内容だったので、わたしはおとなしくついていくことにした。

 

 検査はおおむね、わたしがとっさに想像したとおりのものだった。まずはひきつづき、言語についての質問が続けられた。地球という星についても聞かれ、かれらの天文データベースの中から太陽系を特定する手助けをした。皮膚片と髪を採取され、DNA 解析(と思われる試験)に回された。わが星の宇宙技術の発展のために、草原に停泊している宇宙船を調べさせてもらってもいいか、と聞かれ、もうとっくにそうされているものだと思っていたわたしは二つ返事で承諾した。

 

 昼頃になると食事が出た。そこでようやく気付いたのだが、この星の昼と夜の長さは地球のものとよく似ていた。単位系が異なることによる意思伝達の齟齬をなんとか乗り越えてたしかめた結果(地球でも主にアメリカで似たようなことをしたことがある)、この惑星の自転周期は約二四時間二十分であることがわかった。

 

 見慣れないが不味くはない食事をとり、試験に協力し、部屋に戻って寝る。それを繰り返した。ときには現地の言語を学んだ――残念ながらそれは日本語と同じように、この国でしか通じない言語のようだった。五日に一度は休日があり、研究員の付き添い付きで街に出た。宇宙人が来たという噂は知れ渡っているらしく、わたしは目立たないように変装して歩かなければならなかった。

 

 そうして半年――公転周期はやや短いようで、半年はだいたい百三十日に相当する――が過ぎていった。