人の惑星 ➄

 ここがどこなのか、その日は結局分からなかった。

 

 日が暮れる前に、船に戻る。ホテルらしきものは街で見かけたが、ことばが通じないから泊まれる気がしないし、そもそもお金も持っていない。ここが本当に地球だったとしてなんでも簡単に済むわけではない、という当たり前の事実を再確認する。

 

 夕焼けをバックに来た道を引き返しながら、わたしはなんだか寂しく心細い気持ちになってくる。まるで、見知らぬ人たちの飲み会に自分を連れてきた先輩が、自分を置いて帰ってしまったときのような。でも、どうしてこんな気持ちになるのだろう? 地球を離れるという決心はとうの昔に済ませたはずなのに、意図せず地球に帰ってきたかもしれないという段になって、その決心が揺らいでいる。

 

 地図と道路を交互に眺めながら、わたしは進む。一度通った道のはずなのに、暗くなってきた成果、景色はまったく違って見える。ふと、このまま永遠にたどり着かなかったらどうしよう、と思う。てんで反対の方向にある船に向かって歩き続けるうちに朝になり、なにもない草原で力尽きて横たわって食料も水もなく、だれにも発見されなかったら?

 

 そこで初めて、わたしはあの街に覚えた感情の正体に気づく。懐古。わたしにはあの異人たちの街が、たまらなく懐かしかった。

 

 船のある座標に近づいてくる。前方に明るいものが見え、わたしは安堵する。安心できる場所で、今日起こったさまざまなことを整理したい、と思う。だがしばらく近づくと、おかしなことに気づく。

 

 船の出している光にしては、ちょっと明るすぎないか?

 

 そう思った瞬間、頭上をなにかが飛んだ。

 

 ヘリコプター。すくなくとも、そう見えるなにか。

 

 宇宙空間を二十年間あるいは数週間のあいだ孤独に旅してきた「天穂」号は、いま大勢の観衆に囲まれていた。巨大な綿のようなものを掲げ、機械のようなものをかついだあの集団はいったいなんなんだ? いや、明らかだ。どう見ても、マスコミの類。

 

 なんの予告もなく着陸した宇宙船に、記者たちが群がっている。考えてみれば、地球では当然の反応。でも、そうなるかもしれないと冷静に考えるだけの余裕はなかった。

 

 困ったことになった。

 

 記者にまぎれて近づこうとすると、軍人か警察官かに押しとどめられ、なにやらよく分からない言語でよく分からないことを言われる。武器を向けられているわけではないことから、敵意を持たれているわけではなさそうだが、なにを求められているのか分からない。というわけでぽかんとしていると、記者のひとりがわたしを指さし、なにかを叫ぶ。

 

 わたしは大量の人型生物に押し寄られる。