ヒロイン案2 ①

 朝の公園って、なんでこんなに気持ちいいんだろう。

 

 ひんやりと涼しい空気が街路樹の間を抜け、ベンチに腰掛けるわたしの肌を、軽くくすぐるようにかすめる。すっ、と軽快な勢いで軽く吸い込むと、わたしのなかのまだ寝ぼけていた部分に新鮮な酸素が行き渡って、世界がぱっ、と明るく、鮮やかに見えてくる。

 

 目の前の滑り台に、子供の姿はない。鉄の板は朝日を浴びてぎらりと輝き、思わぬ眩しさにわたしは目を細める。それは昼間であれば覚悟していたはずの刺激であり、夕方であれば耐えられたはずの反射であり、けれどこの午前七時、わたしはありのままの無防備をこの公園にさらけ出していた。

 

 だからわたしが、突然肩に加わった衝撃に驚いたのは必然だった。きゃっ、ともぎゃあ、ともつかぬ悲鳴とともに振り向いたわたしの鼻先に、握り拳大の泥団子がむんずと突き付けられる。それを掬うように支える両手から、白い二本の腕が真っ直ぐに伸び、朝の光に淡く照らされている。

 

「はーい! おいしいお餅ですよ〜!」と、団子の主は声を張り上げる。まるでそうすることで、まだ弱い太陽と張り合うことができるかのように。朝日につやめく泥団子を、新しい惑星の候補に推挙するかのように。

 

 ぼくはそれを見て、思わずくっ、と固まってしまう。

 

 団子を突き出してきたのがこのひとでなければ、ぼくは明るく応対できただろう。「おいしそうだね〜、ひとりでつくったの?」とか言って、喜ばせてあげることもできただろう。すくなくとも、その両腕の向こうの笑顔にわずかばかりのあどけなささえ残っていれば、こちらも固まったりせず、作り笑いを振り向けることくらいはできたはずだ。

 

 だがそうはできなかった。彼女の正体が、そうさせていた。

 

 朝の公園で泥団子をこね、ぼくに嬉しそうに見せてきた女性は、去年卒業した、ぼくの高校の先輩だった。