新地球 ②

 亜高速銀河際交通網、通称ハイエスト・ウェイの歴史には謎が多い。それを語るにはすくなくともビッグ・バン以来の宇宙の歴史をすべて紐解かねばならないとされているが、それについては人類がたくさんの惑星へと日常的に航行するようになったいまですら、ぼくたちはなにも知らない。

 

 分かっていることはいくつかあるが、重要な事項はひとつだけ。それはあの交通網の原型が、なんらかの意図をもって作られたものではないということを意味する、単純明快な証拠である。そう。ハイエスト・ウェイは、全宇宙のあらゆる知的生命体よりも早くから存在するのだ。

 

 そんなことがどうしてわかったのか、宇宙物理を専門としていないぼくにはよく分からない。巷でよく聞く説明では、ハイエスト・ウェイのプロトタイプはビッグ・バンのおよそ十のマイナス七乗秒後に発生したということが天文観測の結果から分かっているらしい。そして十のマイナス七乗秒という時間は、知的生命の発生には少々、短すぎる。

 

 けれども現在のハイエスト・ウェイが変わらず、自然のままの姿であると考えるのは間違っている。それが何億年前のことなのかは分からないが、宇宙のどこかの文明がいかにしてかハイエスト・ウェイの存在を知り、その特殊経路の時空間的改造に興味を持った。要するに、宇宙空間内での高速移動を可能にするランダムな道路網に自分のところの星を接続して、自分たちの移動を便利にしようとしたのである。

 

 それによって行動範囲を著しく広げたかれらは、かねてから存在を認知していた遠方の知的文明にも同じことをさせた。別の星がハイエスト・ウェイにつながるということは、その星の文明との間の交流のための空間的障壁のほとんどが取り払われるということを意味していたからだ。多くの宇宙文明がその方針に賛同し、ハイエスト・ウェイは広がっていった。

 

 残念なことに地球文明はその一員にならなかった。といっても、地球側が侵略を恐れて申し出を拒否したとかそういうことではない。そもそも地球人とは、宇宙人との邂逅を心待ちにした結果、天文観測をして宇宙人の存在しそうな星に目星を付け、メッセージを送ることまでしていた種族である。ハイエスト・ウェイにつながろうという提案があれば、きっと喜んで受けたに違いない。

 

 当時の地球文明は単に、知的文明だとはみなされていなかったのだ。宇宙を縦横無尽に走る亜高速移動のための道路網があるだなんてこと、かれらはまだ想像すらしていなかった。そしてだからこそ、ハイエスト・ウェイにつながっていた連中は、新設の道路の通り道に存在するなんの特徴もない辺境の惑星を破壊することに、いっさいの躊躇を覚えなかった。