歯痛 ⑥

 昨日の夕方に歯医者に行って、この歯痛が現在進行形で日常生活に支障を来たしていることを説明して、とりあえず応急処置をしてもらった。肝心の効き目だが、素晴らしい。帰ってきてからというもの、痛みは一度も出ていない。昨日の時点ではまだ術時の麻酔のおかげかもしれないと疑っていたし、そもそもたまたま発作が出ていないだけという可能性も捨てきれなかったが、今日のこの時間になってもまだまったく痛くないということは、治療がものすごくよく効いているということである。

 

 あまりに効きすぎてむしろ不思議に思えてくるくらいだ。というのも、わたしが知っている痛みというものはたいてい、そんな急激には収まらない。もとのものと比べれば比較的軽いがそれでも痛みが残ったり、なんだか周辺部分から違和感が消えなかったり、そういう現象が往々にして起こる。医学知識のないわたしが言うことだからこれは医学的見地でもなんでもないわけだが、とにかく人体というものはそんなにスパッとなにかが治っていっさいのことが気にならなくなるような、そんな数学みたいな構造をしてはいないのだ。すくなくとも、わたしにはそう思える。繰り返すがこれは素人の戯言であり、なんの根拠があるわけでもないのだが。

 

 もしかするとこれは歯に特有の現象なのかもしれないし、そうでないのかもしれない。治療内容として聞いているのは、歯を削り、神経の周囲に痛み止めを塗って仮蓋で覆ったということで、それ以上の内容、たとえばどんな痛み止めを使ったのかや神経に痛み止めを塗るとはどういうことなのかについては、わたしが聞いても分からない。痛みを止めるためにはその痛みを感じている神経を止めればいいというのは小学生にでもわかる論理だが(もっとも、現実の人体でほんとうにその理屈がうまくいくと考えるのはいささか日直感的ではある)、その論理が正しいと仮定すれば、歯の痛みはきっとすこぶる止めやすいものなのだろう。歯の一本が痛いのなら、そのために止めるべき神経は一本だけである。しかもそれは歯を構成する硬い構造の内部にあり、皮膚や筋肉などという、おそらくはべつの神経を備えた組織とのあいだには明確な区切りがある。もちろんこれも素人の戯言であり、医学的な(おそらく歴史的でくだらない経緯から医学と歯学はべつのものとされているので、厳密に言えば「医学的または歯学的な」となる)見地からすれば、取るに足らない考察なのかもしれない。わたしに分かるのはとにかく、痛みが完全に引いたということだけであり、わたしはそのありがたい事実をとにかく、ある種不自然なことのように受け止めている。