歯痛 ③

 まだ歯が痛む。というかむしろ、ひどくなっているような気がする。痛みの質は最初と変わりないか、そうでなくとも慣れによって相殺できる程度の増加にすぎないが、痛い時間が長くなった。一日に二、三回突発的に発作が来ていたはずが、いまではことあるごとに刺激が走る。

 

 これでは生活がままならない。事実、夜はよく眠れなかった。眠れなかったと言いながら布団には十時間入っており、その時空論的事実はわたしがそれなりに眠ってはいたことを示唆しているし(そうでなければ亜高速で移動していることになるが、それはない)、事実として翌日に疲労を持ち越すこともなかったわけだが、それでもとにかくわたしの主観的な認識の中では、痛みに悶え続けて眠れなかったということになっている。

 

 薬はちゃんと飲んでいる。そう書くとまるでわたしが真面目な人間のように聞こえるからより正確に言うと、わたしは薬に縋っている。そう書くとまるでわたしがなにかの中毒者のように聞こえるからより正確に言うと、わたしはすべての症状はロキソニンで解決すると考えるロキソニン原理主義者であり、痛みと発熱の悪魔を退散する神に祈りを捧げるロキソニン狂信者であり、よって普段からそうしているように、困ったときの鉄板の対処法としてロキソニンを服用している(なお、わたしの信じるロキソニン教は非常に寛容なので、ロキソニンのかわりにジェネリック医薬品であるロキソプロフェンを飲んだところで、なにも文句は言われない)。

 

 そしてにもかかわらず歯は痛み、ロキソニン教の経典に照らし合わせれば、それは市販薬の最高峰であるところのこの薬をもってしても抑えられぬ痛みがあるということを意味している(より強く、投与に専門的な知識を要する薬の前で、ロキソニン教徒はみな謙虚である)。

 

 歯医者には行った。レントゲンを撮ると虫歯が見つかったが、それは患部とは反対の奥歯だった。いや虫歯なのだからそこも患部でありしたがって患部と反対というのは不正確な表現だが、とにかく虫歯のところは痛くなく、虫歯ではないところが痛い。ギャグみたいな話だが本当である。痛いところが虫歯ならすぐに処置をしてくれたのかもしれないが、虫歯でないのだから手の施しようがなく、したがって歯医者の出した結論は現状維持、すなわち二週間様子を見るということだった。

 

 困ったことになった。この状態で二週間放置されてはかなわない。二週間後に行ってぱっと解決するならまだ希望がないわけでもないが、原因がよく分からない以上、そうならない可能性もある。そしてわたしが歯の専門家ではない以上、わたしにできることは結局、また歯医者に行くことだけである。