些細な変更点

 実は形式の面で少しだけ、この日記の文章はしばらく前から変わっている。とくに断って始めたことでもないからだれも気づいていないだろうし、些細なことだから気づくだけ時間の無駄なのだが、とにかく毎回、字数にしてほんの数文字ぶんだけの変更点がある。いないとは思うがもしあなたがその正体を考えたいという物好きな人間なら、一応ここで一旦読むのをやめるのをお勧めする。

 

 とはいえそんなひとはいないはずなので、ネタばらしはもうしてしまおう。これまで二年強にわたって各段落の冒頭に字下げがなかったのを、するようにした。それだけだ。こんなにもったいぶって話すことじゃないだろうと思われた方、まったくその通りである。

 

 とはいえ本来、字下げはあるのがよいとされている。くだらない文章規則のひとつであり、似たようなもので言えばほかには三点リーダはふたつ重ねて使いなさいだとか「!」や「?」のあとにはスペースを入れなさいだとか、そういうのがある。これらはまったく文章の内容に関係ないし、やっていなくても文章の本質をなんらおとしめるものではないのだが、とはいえ気にするひとはけっこう気にするようで、そして気にし始めるときになってしまう一部のうるさい人間の脆弱性のせいで、わたしたち全員が従うことを余儀なくされている不毛なルールである。

 

 わたしはそういうのを気にしない人間だ。実にくだらない、だれが決めたのかもなぜそうなっているのかもわからないルールにだれかが従わなかったところで、それを理由にそのひとの評価を落とすような、そんな非本質的なことはしたくない。けれども同時に、そういうことが少しは気になってしまう人間でもある。他人の書いた文章がどうなっていようが構わないけれど、ルールを知ってしまったが最後、そしてそれに従うことが大きな精神的困難をもたらさない場合に限って、自分の書く文章は自然と、ルールに従う形式で書こうと思ってしまう。

 

 かくしてわたしはそのくだらない、統一する必要すらないなにかの形式を統一するためだけにあるルールの維持に寄与し、不毛の再生産に消極的に協力することになる。

 

 そういうルールは数あるが、これまでわたしが字下げにだけ無頓着だったのは謎である。三点リーダを単独で使うことはないし、はてなマークのあとには雰囲気でスペースを入れていたが、字下げは一貫してしてこなかった。それでわたしは違和感を覚えなかったし、本当は字下げをするべきなのだと思ったこともなかった。けれどいま、わたしはすでに、段落が字下げなしに始まっているとむずむずする身体になってしまっている。