全自動鶴折りマシーン ③

噴射された高温が世界を裂く。空気が悲鳴を上げ、幽霊のように青く輝く。完全燃焼の行進が、寄り道も躊躇もせず、進行方向の酸素をまっすぐに飲み込んでゆく。

 

これがもし赤い炎であれば、つけいる隙が見いだせるかもしれない。一見して暴力的な不完全燃焼の炎は、自分が炎であることを、つねに主張しつづけなければ気が済まない。ほとばしる熱気を失うことをまるで恐れているかのように、赤い炎は燦然と輝き、そしてエネルギーを無駄にする。

 

だが青い炎には容赦がない。完全燃焼の暗い輝きは自信に満ちている。いや、傲慢さ、とでも言ったほうが正確だろうか。炎の青さは、自分が自分だと証明することに興味がない。誰かの目に留まり、誰かに定義されなくても、青い炎は炎に決まっているのだ。

 

自らの噴射はショーではない。なにかを焼く姿を、見せびらかす必要はない。ただ、焼き尽くす。静かに、効率的に。もっとも高い温度で、だがこの上なく冷酷に。

 

炎は大きいとは言えない。だが速度がある。炎に重さの概念はないが、それでもこの炎が与えているのは、まごうことなき圧力だ。炎は板を押し、板は真っ赤な悲鳴を上げる。死が眼前に迫ってなお、殺されかけていることをアピールしなければ気が済まない、哀れな被害者のように。

 

バーナーを握っている屈強な男は、《復活工》の紙原である。本名は、紙原哲郎。いまどき珍しい、町工場の五代目だ。赤銅色の肌はところどころ爛れて、この仕事での経験を無言のうちに物語っている。

 

彼の目の前には、鋼鉄の板がある。もとは一辺二メートルの、巨大な板だ。それに彼は、容赦のない青い炎で、一本の直線を刻み込んでゆく。

 

定規は必要ない。目安の線も必要ない。長年の経験は彼に、完璧な精度でバーナーを動かす技術を与えた。どんな機械も、彼のように正確に直線を引くことはできない。彼ほどにぴったりと、鋼鉄の正方形をひし形に折り合わせることはできない。

 

目の前にはいまや、完璧に折りあげられたひし形がある。長辺二メートルのひし形の前では、彼の筋肉質の身体も小さく見える。彼はその先端に回り込み、ふたたびバーナーの炎を当てる。鋭角を、さらに鋭角にたたむために。

 

ここからが、難しいところだ。

 

計ったような等速度で彼はバーナーを進め、そして不連続的に緩める。次の折り目のほとんどの部分は二枚重ねだが、鈍角部分に近い一部だけ、鋼鉄が四枚重なっているところがあるのだ。上からは見えない境目、だがその場所は当然、彼の経験に染みついている。異なる厚みの鋼鉄板がいとも簡単に、おなじやわらかさへと統一されてゆく。

 

決して他言はしないが、彼はこの部分の作業に誇りを感じている。彼にしかできないのだ。もっとも最近は、彼以外にも、この折り目をつけようとする職人がいる。だが彼のレヴェルには誰も達せないと、彼は自負している。

 

鋼鉄の鶴ができあがる。彼はそれを抱え上げ、脇の机に移す。その隣には出来上がった幾多の鶴が、整然と雄大な群れで積まれている。

 

彼はその山を見て、静かに頷く。そして次の板を、作業台の上に持ち上げる。