全自動鶴折りマシーン ②

「できた……!」

 

試作機の吐き出した物体を見て、カンナは興奮の溜息をついた。

 

暑い夜だった。摂氏三十度を下回ることのない東京の夜は、ここ彫機研のある山奥にも、太く長い触手を伸ばしていた。いったん訪れた猛暑は、決して途中で終わることはない。数日間だけ存在するらしい秋という伝説の季節が過ぎ、降り積もる雪の地獄が訪れるまで、この山奥はずっと不快なままだ。

 

だがカンナの額の汗は、暑さのせいではなかった。暑がりのカンナはいつも、最大出力で冷房をかけていたからだ。研究所の冷房の温度設定、それは主席研究員であるカンナの特権のひとつ。彼女の設定があまりにきつすぎるものだから、研究所には夏でも上着を持ってくるのが、なかばルールのようになっていた。

 

そして、いまは深夜。カンナの設定に文句を言うやつは、誰もいない。彼女だけが満足する極寒。一番集中できる作業環境。

 

汗の理由はもちろん、興奮だった。

 

彼女の目の前にあるもの、それはひし形に折りたたまれた鋼鉄板だ。長い方の対角線の長さは、もとの鋼鉄の正方形の一辺の長さに同じ。ひし形の辺は、対角線の両翼とぴったり二二・五度の角度で伸び、四十五度の鋭角をかたちづくっている。すなわち鈍角は百三十五度で、正方形の内部の、六つに分岐する折り目によって定義されている。

 

押さえて、開いて、たたむ。鋼鉄版で折り紙を折るうえで、一番難しい部分。目の前のひし形は、彼女の機械が峠を超えたことを表していた。

 

「……やった!」あたりに誰もいないことを今一度確認すると、彼女は小さく吼えた。

 

握りしめた拳をもとに戻すと、彼女はひし形を手に取った。最も厚いところで五ミリメートルほどの、変形した鋼鉄の板。板が四重に重なった部分は、鈍角のところで二枚ずつに分かれている。いまはまだ、二枚は対称。だが近い未来に、どちらかが鶴の頭を、もう片方が尻尾を定義するのだ。

 

……そうなる日まで、立ち止まってはいられない。カンナは決意し、横の引き出しを開けた。

 

カンナは一枚の紙を取り出した。こうなったときに使うと決めていた、けばけばしく金色に光る折り紙だ。厚みも大きさも、もちろん重量も鋼鉄板とは異なる。共通点はひとつ、どちらも正方形であることだけ。

 

それを彼女は、さきほど鋼鉄を折った機械にセットした。折り鶴のたいていの需要は鋼鉄製のものだが、そんなことは関係ない。機械はあらゆる大きさ、あらゆる素材に対応する必要がある。実用上の必要性、それは彼女が、理想を追い求めない理由にはならない。

 

だって、カンナの目標は、折り鶴の完全な自動化なのだから。

 

机の上のハンカチで、彼女は額の汗を几帳面に拭った。拳をいまいちど握りしめ、そしてほどいた。

 

そして、祈りを隠した無造作で、愛すべき機械わがこのスイッチを押した。