全自動鶴折りマシーン ④

紙原が《復活工》と呼ばれるようになったのには、しばらくの紆余曲折がある。

 

十年前。核戦争を生き延びた紙原の町工場は、存亡の危機に瀕していた。

 

仕事がないわけではなかった。むしろ、仕事はいくらでもあった。倒れた家、壊れた機械。そういうのを直すのに、紙原以上の人材はなかなかいない。

 

だが働いたとて、生き延びられるわけではない。警察が機能していないのをいいことに、報酬が踏み倒され続けていたのだ。そのうえ、戦争前に作った債務もあった。簡単に返せると思っていた債務は、とんでもない円安によって、とうてい返せない額に膨れ上がっていた。

 

そんな町工場に、ひとりの若者があらわれた。

 

壊滅した埼玉の街に、その女性のいでたちは不釣り合いだった。彼女はブロンドの髪をして、額に大きなサングラスを載せていた。着飾った服には汚れひとつなく、どうやら新品のようだった。どこから来たのか、と紙原が聞くと、女性は流暢な日本語で、外国から、と答えた。

 

端的に言って、いけ好かない恰好だ。お洒落をするなとは言わない、だが少しは、周りの雰囲気に合わせて欲しい。見た目で人を判断しないことを自分に課している紙原だったが、このときばかりは例外だった。信じてはいけないタイプの人間。紙原はポリシーよりも、自分の直感のほうを信じることにした。

 

「終わった街に、いったい何の用だね」紙原は訊ねた。

 

女性は答えた。詐欺師の見本のような口調だった。「あら、終わっただなんて。むしろ、これからですわ。あなたが、発展させるんです。わたしとなら、それができますわ」

 

「きれいごとはやめろ」紙原はぞんざいに返した。「そういうのはうんざりだ。戦争の前、だれもが浮ついた希望を語った。だがそうはならなかった。黙れ。そして用がないんなら、帰ってくれ」

 

「あらごめんなさい。でもわたくしは真剣に申し上げておりますのよ。東京の街を、復活させてみたくはありませんか。英雄になりたくはありませんか」

 

「英雄っていうのは死んだやつのことだ。俺の知り合いにもたくさんいるよ。だからこそ、俺は死にたくはねぇ。さっさと帰るんだ」

 

「あら、死ねなどとは申しておりませんわ。どうしてそう曲解なさるのでしょう」鼻につく声。バーナーで彼女の顔を焼きたい衝動を、紙原は懸命に抑えた。「在りし日の街を想う気持ちは、みな同じでしょう。祈りを、行動に移すときです」

 

「いい加減にしてくれ」紙原はいらだちを隠さなかった。「曖昧な話は嫌いだ。要件を言え。さもなくば、二度と口を利くな」