最良行動計 ①

月曜日の朝。電池式の目覚まし時計の音で目覚めると、リチャードは普段通りにキッチンへと直行し、トースターのボタンを押した。電熱線が赤熱し、食欲に紐づけられたジーという音を出し始めるのすら待たず、彼は電子レンジの上のコーヒーメーカーと、最良行動計の電源を入れた。寝起きとは思えない効率、だがよく見ると一連の行動は、寝起きの身体にもできるように設計されている。

 

もう新たな発見のありえない、毎週月曜日のルーチン。変わらない作業は自分の成長につながらないのだから、できる限り効率化して、時間と気力のリソースを節約するに限る。実際昨晩、どの日とも同じように彼はトーストを冷凍庫から取り出してトースターにセットしておいていたし、どの日曜日とも同じように、目覚まし時計には最良行動計の軌道を促す特定のアラーム音をセットしておいたのだった。

 

トーストが焼きあがるまでの間に、彼はパソコンを起動し、週末のあいだに溜まっていたメールを処理する。最良行動計を見ればほぼ間違いなく一番上に載っている行動候補だろうが、わざわざ見る必要もない。文明の利器に頼るまでもなく最良な行動が分かっているのであれば、わざわざ頼る必要などないのだ。もし仮に、今朝の最良行動がメールチェックでなかったとしても、その無骨な見た目の機器を眺めてつぶす時間のほうがトータルで見ればもったいないと、リチャードはずいぶん前に結論付けていた。

 

メールをチェックし終えるのと、トーストが焼きあがるのはほぼ同時だった。リチャードはキッチンに戻ってトーストを取り出すと、その場で細かく引き裂いて調理台に置く。コーヒーメーカーにセットされたカップは、ちょうどトーストを食べ終わったころに満ちるはずだ。リチャードはトーストの切れ端を後ろ手でつまみながら、最良行動計を見てその日の仕事の優先順位を確認した。その三番目には、先ほど確認したメールではじめて存在を知った仕事も含まれていた。トーストの最後の切れ端を口に入れ、コーヒーで流し込んでカップを置くと、リチャードはリビングに戻って仕事に取り掛かった。最良行動計の指示をただ上から順にこなしてゆく、この上なく気楽な作業に。

 

時間が過ぎ、そして仕事も進んだ。

 

リチャードが四度目に最良行動計を眺めると、一番上の行動は「ソファーに座って目をつぶり、十分間休憩する」だった。それを見て初めて彼は疲労を感じ、皮肉な笑みを浮かべた。どうやら最良行動計はわたしの生理感覚すら掌握していて、機械のお墨付きなしには、わたしは疲れを疲れと認識することすらできないようだ。我が家に導入したころには信じられなかったことだが、今ではすっかり、リチャードは機械のしもべだった。