街の唯一の門を潜り抜けた瞬間、冷ややかな祝福が彼の脳を満たした。赤道直下のぎらつく陽光が彼を焼き、プールのような湿度が彼を蒸していた。だがそのどれも、彼の脳を調理することはない。
廃墟と言われても納得するような、さびれた街の入り口。目の前に家らしきものはなく、人間らしき影も見当たらない。事前の演習で伝えられた通りの光景は、美しくも神聖でもない。厳重な警戒体制のもとで見せられた通りの景色が、ここにはあった。
彼は、自分が内心、そうでない景色を望んでいたことに気づいて驚いた。望んでいたのは、目の醒めるような美しさだった――刹那、そのことばが浮かび上がり、彼は慌てて打ち消した。危険極まりない思考。俺は俺であることをやめたいのか?
だがすぐに彼は、美は本当の望みではなかったことに気づいた。彼が期待していたのは、もっと物理的に危険な何かだった。たとえば、門の裏から伏兵が現れて、クロスボウで彼を攻撃するとかいう。それゆえに、過剰だと知っているにもかかわらず、いつでも戦闘に移れるように彼は身構えていたのだ。
だが残念ながら、現実は演習の通りだ。安堵と落胆のないまぜになったような感情を脇に置いて、彼は脳波連動ゴーグルの警戒レベルを下げた。一喜一憂してはいられない。こなすべき手順がいくらでもある。
彼は視線を《脳裡》のディスプレイに移した。網膜ディスプレイの右下部分には、前もって起動しておいた《思考警察》縮小ウィンドウがある。彼がいま必要とする機能だけを取り出した、必要最低限のログ。脳波の監視データに、想定される異状がないかどうかをチェックするための、極限まで簡略化されたインターフェース。
そのランプは、依然として緑色に光り続けている。彼の正常さを示す、この上なく簡潔な証拠。
俺は正常だ。
彼の感覚も、データが正しいと告げていた。初めての街に訪れたときに覚えるべき感情。一線を踏み越えた感覚。不安と高揚の混ぜ合わせ。この先なにが起こるにせよ、それは面白いなにかだろうという期待。あとには引けなくなったという実感、だがそれでよいという判断。
初めての何かに対する、まったく慣れ親しんだ感覚。そのすべてが、いつものときと変わらず、彼の脳内にあった。
正常。
感覚を妄信してはいけない。だが、感覚とデータが一致しているなら、信じても問題ない。
「
マイクの音声は軍のオフィスに飛び、今頃は最新のスーパーコンピュータに解析されているところだろう。ちゃんちゃらおかしな話だ。それを電気の無駄遣いだと嘲笑える程度に、彼は依然彼のままだった。