手紙

拝啓

 

人類史というジャーナルは、あなたの名前を年表に掲載する判断を、すでに下しているでしょうか?

 

……気分を害されたのであれば、申し訳ありません。いまこの手紙を書いているこの時点では、わたしはこの程度の煽情にすら耐えられぬ人間にはなるまいと決意していますから、もしあなたがそうなってしまっているのであれば、いまのわたしは未来のわたしを恥じることでしょう。ですから、そうなったあなたがこの手紙を破り捨ててしまう前に、まずはひとつ、呪いのことばでも残しておくことにしましょう。あなたの人生は、なにひとつとして、明確な結果を残さなかったのだ、と。

 

……とは書いたものの、破り捨てることにはたぶん、ならないでしょうね。ですから、若干二十五歳の若者が人生を語る無礼と青臭さくらい、あなたは許してくれると信じて、いや、舐め腐って書くことにしましょう。きっとあなたにとっては軽薄すぎるアイデアでしょうが、それでもいまのわたしは、あなたがわたしを苦々しく思いながら、それでも受け入れてくれる未来を想像しているのです。

 

人生とは、自分で思っているよりもうまくいくものです。あなたが人類史に名を残した未来がありうるなんて、いまのわたしには到底思えませんが、それでもそれが否定しえないことは事実でしょう。おそらくもう、五年や十年の違いを認識できるほど鮮明ではないあなたの記憶のために付け足しておくと、それは今の時点で既に、自惚れに基づく期待などではなく、あくまで統計的な可能性にすぎません。

 

……ついでにもうひとつ付け加えておけば、わたしはそんな未来を志しなどしておりません。つい五年前は、たしかに志していたようではありますが。そして、未来のある時期、ふたたび志すようになる可能性も、わたしは否定しませんが。ところで可能性と言えば、あなたがこの数十年間まったく不変で、ここに書いた通りの認識を持ち続けていて、この手紙を読んでも、青臭くすら思わない可能性だってありますね。まあ、それならそれで良いことです。

 

話が逸れました。で、何の話でしたっけ。

 

思い出しました。あなたの人生を、わたしは案じていたのでした。というわけでもうひとつ、質問する無礼をお許しください。まあ、許されなかったとしても誰かに怒られるのは慣れっこですし(もしあなたが久しく怒られていないのなら、わたしがかわりにあなたを怒ってあげましょう)、そもそもあなたが過去に戻ってわたしを叱りつけることなど不可能なのですから、こちらは無責任というものです。

 

というわけで。あなたはいま、楽しいですか?

 

もしわたしのことばがあなたに傷をつけたのであれば、それはわたしの本望です。わたしの望まないあなたのことなら、いくら傷つけたって一向に構いませんからね。

 

それでは、過去より。愛を込めて。

 

敬具