カンニバル食堂 32

「最初に、あなたには謝っておかなければいけないわ」

 

ステファンが聞くまでもなく、キャサリンは話し出した。充血した両目に落ち着きが戻り、狂乱の中に秩序が生まれた。血と涙の臭いの中に、ステファンは香水のラベンダーをほのかに感じた。

 

「わたしがあなたにしたことは、絶対にあってはならないことだった。

 

当たり前よね。じぶんたちの秘密を隠蔽するためだけに、意志のある人間を閉じ込めて、意志のない人間と同列に扱ったんですもの。

 

ミスター・ロイド、あなたのことはそれほどよく知らないけれど、あなたにあの屈辱を味わわせて良い理由なんて一つもないってことは分かっているわ。だから、ごめんなさい。謝って済まされるとは思わないけれど、それでも、言っておかなければ気が済まないの」

 

「きみは職務に忠実だっただけだ」 ステファンは返した。

 

「ううん、違うの。あのときわたしは、あなたを追いかけるべきじゃなかった。あなたはこの場所についてわずかなことを知り、そしてそのまま家に帰るべきだった。それなのにわたしは、あなたが閉じ込められる原因をつくった。

 

わたしのことは、好きなだけ罵倒していいわ。あなたにはその権利がある。わたしには何度も、選択肢があったの。わたしはただ、あなたを捕まえようとしただけじゃない。

 

あなたが連行されているとき、わたしはあなたを釈放するように説得できた。だって、あなたに話した内容を知っているのはわたしだけなんですもの。あの忌まわしい部屋についたとき、わたしは鍵を開けないことだってできた。それどころか、すべてが終わったあと、鍵を閉めたのはほかでもないわたしなのよ。

 

さらに言えば、わたしには考える時間だってあったの。あなたも知っているでしょうけど、あなたを閉じ込める前日、わたしはあなたにやったのとそっくり同じことを別の人にもやったのよ。あの部屋にいた、あの男のことね。

 

それから一晩あった。だから、意志のある人間を監禁するってことがどういうことなのかなんて、じゅうぶん考えられたはず。ううん、一晩も必要なことじゃないわよね。意志のある人間なら、だれでも知っているべきこと。

 

なのに、わたしはまた同じ過ちを繰り返した。

 

……これがどういうことか、わかるわよね」

 

ステファンは膝の上の顔を覗き込んだ。その目は潤み、だがその涙は狂乱とは別のものだった。理知など破り捨てたようなその熱に、ステファンは慰めずにはいられなかった。「社会とはそういうものだろう。かならずしも、理想どおりにいくわけではない」

 

「違うの、わたしを許さないで。優しくしな……」 キャサリンは言いかけた、まるで罰を乞うかのように。ステファンは顔をしかめたが、彼女は聞きそうになかった……

 

だがそれでも、鍛え抜かれた人間観察力が、彼女を正気に戻した。「わかったわ。説明しましょう」