カンニバル食堂 38

「さっき、あなたも見たわよね。発育した肉人を」 キャサリンは続けた。その上目遣いはステファンに共感を求め、その控えめな声は協力の意思表示だった。彼女は、ステファンを同類だとみなしたいのだ。「あなたはどう思ったかしら?」

 

「踏みつぶされていたせいで、それどころではなかったのだが……」 ステファンは正直に言いかけ、キャサリンの顔がわずかに曇った。ステファンは慌てて言葉を切り、言いなおした。

 

「……いや、扉を開けた瞬間、ほんの一瞬だが、わたしは見た。たしかに、それは醜悪な景色だった」

 

「そうよね」 キャサリンの顔に安堵が浮かんだ。「わかってくれてよかった」

 

たしかに、あの景色は異常だった。肉人たちはたしかにみな全裸だった、髪はぼさぼさだった、そしてときおり汚物に塗れていた。だがそれを抜きにしてなお、彼らにはこの世のものならざるなにかがあった。なにが彼らを、あれほどまでに不気味にさせるのだろうか? ステファンは考えた。「奴らには……」

 

ステファンは、彼らが街を歩くさまを想像してみた。そのためにはまず、身体を拭く必要がある、髪を切る必要がある。そして、いかにしてか服を着せる必要があり……

 

そして、それらすべてを想像で補った光景に、ステファンは真の異常性を見た。そうなったとき、彼らが目的をもって歩き出すことはないだろう。暑さや寒さに気づき、相応のジェスチャーを取ることもないだろう。飢えに気づき、ゴミ箱を漁ることもないだろう。

 

いかなる手段でも、彼らは意思表示をしないだろう。

 

そういうことか。ステファンは気づき、言った。

 

「奴らには、生命力がない」

 

ステファンはキャサリンの表情を伺った、そして好意的な返答に安堵した。「いい表現ね」

 

キャサリンは続けた。言葉とは裏腹に、その顔には自信に満ちた微笑が浮かんでいた。「そう、肉人は生きていないの。もっとも生物学的には、生きているのでしょうけれど。

 

わたしたちの設備はものすごい。説明のために……そうね、データの話をしましょう。あなたは信じられるかしら? ここでの肉人の死亡率は、じつはアメリカ全体での幼少年の死亡率より低いのよ。それも、半分以下。

 

生育のほとんどは、完全に自動で行われている。ここで肉人が与えられている環境は、ものすごく効率的なのよ。わたしたちの手でやることといえば、乳児状態の彼らを入荷したときに専用の機械に括り付けることと、乳児期のおわりに彼らを取り外すことだけ。簡単でしょう?

 

そう。人間を生物学的に生かしておくだけなら、それ以上のなにも必要ないのよ。でも、それだけじゃとても、人間とは呼べない。見ての通り、不気味だから。

 

肉人たちが不気味なのは彼らが愛を知らないから、そう主張するひともいる。たしかに、彼らは愛を知らないでしょう。そもそも、育ててくれる人を知らないのだから。

 

けれど、それは本質じゃない。本質は、彼らが生も死も知らないことなの。そして、人間をただ生かしておくことがこれほどまでに簡単だっていう事実を、死と隣り合わせで生きてきたわたしたちが、絶対に直感できないっていうことなのよ」