「わたしはあらゆる手をつかって、その工場の正体を突きつめようとした」 思い返すように、キャサリンは目を細めた。その視線はステファンの顔を、天井の機械と配管を超え、カリフォルニアの無垢な空をまっすぐに貫いていた。
「わたしにはそれができるって信じてた。わたしの情報網はじっさいにかなりのものだったし、それになにより、当時のわたしは舞い上がっていたから。
これはわたしだけの秘密、わたしだけのスクープ。何度も夢想したわ、この工場のことを調べ尽くして、完璧にまとめ上げて発表するわたしの姿を。わたしの頭はもう、想像上の会見場のことでいっぱいだった。全米の記者の前で、わたしはしずかに原稿を読み上げるの。無数のフラッシュに、ほとんど前も見えなくなりながら!
けれど、調べても調べてもなお、この場所の正体は分からなかった。
わたしは焦った。もしほかの誰かが、このことに勘づいたら? そして、わたしより先に、この真実を発表したら? わたしは、せっかく掴んだチャンスを逃すことになる。そんなことは、絶対にあってはならない。わたしは先輩たちとは違うんだから。ことばではなく、実践に生きると決めたのだから。
だからわたしは、住所だけをたよりに、ひとりで工場に乗り込んだの」
記憶そのものを吐き出すかのように、キャサリンは深呼吸をした。
「そう、ほんとうに無謀な行動だったわ。若い頃の行動には、あとから思い返せばものすごく危険だったことがいくつもあるけれど、その中でもこれは段違いね。
でも、わたしにはそれしかなかったの。わたしは情報にばかり気を取られて、おおきな状況を見失っていた。今のわたしなら、同じ行動はとらないでしょう。今なら、わたしは代わりに……その……
わたしは……」
キャサリンの目が泳いだ。夜明けの空に星を探すかのように、その目はかつてあったものの幻影を追っていた。彼女の正気のために、ステファンは返した。「機会がくるまで、冷静に待つ?」
キャサリンは答えた。 「そうね……ううん。違う。
昨日までのわたしは、そう信じていたわ。わたしは大人になって、何事も冷静に判断できるようになったって。だから、もし昨日同じことを聞かれたら、わたしはなんのためらいもなく、そうだと答えていたと思う。
でも、こんなことになった今、わたしにはそんな自信はない。わたしは一瞬にして、ここの裏切り者になったの。 それもすべて、わたしが冷静じゃなかったせい。
……すべて、わたしの無謀のせい! わたしは結局、なにも変わっていなかった! わたしは……わたしは、なにも、まったく!」
唾が飛び、ステファンの顔を濡らした。「違う! 違うの! わたしはもっと早く失敗しているべきだった! 学生の頃の無謀さで、わたしは痛い目に遭うべきだった! 向こう見ずが、正しく評価されるべきだった!
わたしは……うっ、わたしは……
わたしは、あのとき死んでいるべきだった!」