ステファンは取り囲まれ、先ほど駆けた廊下を連行された。
左右に並ぶ、無数の扉。そのひとつひとつが、そこからの絶え間ない雑音の一音一音が、ステファンの人生最大の絶望に相当した。
ただでさえ、捕まるのは良くないことだ。そしてあろうことか、今回ステファンが捕まったのは、二万人もの人間を常に収容している施設だ。生きてここを出られる可能性は、限りなくゼロに近かった。
出られるとしたら、肉として。
絶望の中に奇妙な思いが閃き、ステファンは自嘲的に笑った。わたしは肉として出荷され、そしてわたし自身がわたしの肉を食べる。その異様な矛盾の中にしか、いまの彼は頼れなかった。
胎児の肉より、十歳の肉のほうが美味いらしい。では中年の肉は、それらより美味いのだろうか?
運命の丁字路を右に折れ、ステファンたちはオフィスのほうへ向かった。ステファンの両手はずっと、左右の若い事務員に握られていた。振り返れば先ほどの愛想のよい事務員が、支配的な嘲笑を浮かべながら、それでも警戒を怠らずに歩いていた。前方ではキャサリンの金髪が揺れ、毅然とした足音で一行を導いていた。
「正しい道はこっちだ」 後ろの声が右を指し、ステファンは通路を見た。運命の分かれ道、通るべきだった通路。遠くに見えるものがエレベーターなのかは、ステファンの視力では判別できなかった。
だがどちらにせよ、彼が道を間違えたという事実は、そして一つのミスが文字通り命取りになるという事実は変わらなかった。わたしはここで暮らし、いつかは分からないが、ここで死ぬのだろう。
「こっちよ」 ふたつ向こうの通路でキャサリンが立ち止まり、後続を待った。彼らが追いつくと、キャサリンは優雅な足取りで右折し、そして一行はそれに続いた。ふたたび、左右の無数の扉。心なしか高い雑音。両腕を拘束する、二本の腕。
そのまましばらく進むと、ふたたびキャサリンが立ち止まった。ポケットから鍵を取り出すと、目の前の扉を開けた。一見してほかと区別のつかない扉、ステファンが一生を過ごすことになる。そしておそらくほかと異なり、中身はほとんど空っぽだった。
「入れ」 後ろの男が言った。警戒してか、こころなしか両腕の拘束がきつくなった。抵抗しても無駄だ。言われた通り、ステファンは部屋に入った。
「お前の居場所はここだ」 と後ろの男。「えっと……本当の名前は何だったかな」
ステファンは答えなかったが、それで問題ないようだった。「まあいいか。とにかく、部屋の隅に行け。そしてそこから動くな」 人を逃がさないための常套手段。ステファンは言う通りにした。
広い部屋の隅にたどり着くと、キャサリンが言った。その声は依然として優雅で、だが不信感がありありと見て取れた。「奥の壁際の床、わかるかしら」 ステファンが見ると、壁には高さ五インチほどの横穴があいていた。「食事はあそこから流れてくるわ」
「ウンコもな」 例の事務員が高らかに笑い、ステファンをより深い絶望に叩き落そうとした。汚い話は嫌いなのか、それとも単に嘘が嫌いなのか、とにかくキャサリンが彼を睨みつけた。「安心して。わたしたちは衛生には気を遣っているわ。特に、部屋をまたいだ疫病の蔓延にはね」
「じゃあ、せいぜい楽しむんだな。あくせく働かずとも食っていける、広い部屋での悠々自適を」 そう言い残すと、例の事務員は踵を返した。「じゃあな、いくぞ」
彼らは去り、扉が閉まった。施錠の音を聞き、ステファンは全身から力が抜けるのを感じた。この殺風景がわたしの住処、その結論は到底受け入れられるものではなかった。
だがステファンは疲れていた。だからとりあえず、寝よう。そして後のことは、起きてから考えよう。さいわい、時間はたっぷりある――もっとも、策があるとは思えないが。
ステファンは固い床に寝転がった。ステファンはラウンジの椅子を思い出した、あの快適な椅子を。あのときは椅子だけを求めていたが、いまではあの、お高く留まった空間が恋しかった。
ステファンは眠りに落ちかけ、だが床はそうさせてくれなかった。ステファンはもぞもぞと動き、なんとかまだマシな体勢を見つけようとした。数十分後、ステファンが七度目の寝返りを打ったとき、彼は耳元に男の声を聞いた。「おい」
「え?」 ステファンは目を開け、目の前の男の顔を見た。
こんなこともあるのか。驚くべきことに、それはここに来て二度目の再会だった。ステファンが飛び起きると、相手の男も途端に飛び跳ねた。
互いに目をまんまるにする、二人の中年男性。二人は同時に言った。
「ステファンじゃねぇか」
「ボブじゃねぇか」
そうして再び、二人は言った。
「「おい、どうしてここにいる」」