カンニバル食堂 39

「とにかく、わたしはすぐに組織をやめたわ」 他人事のような口ぶりで、キャサリンは話を進めた。

 

「引き留められることはなかった。それでまったく構わなかった」 まとめて吐き出される、腹立たしくくだらない記憶。「むしろ引き留められていたら、わたしは耐えられなかったでしょうね。組織のひとたちのことばに。現実の肉人を知らずに並べ立てられる、威勢だけの空虚なことばたちに」

 

ステファンはその先輩たちを想像した。それはステファンに、ひとつの腹立たしい、そして継続的な体験を思い起こさせた。人肉協会で働いていると告げた、ほとんどの相手が示す反応。「人肉を食べたこともない人間に、人肉を不味いと言われるようなものか」

 

「そう……なのかしら。ううん、たしかにそうかもしれないわね」 キャサリンは返した。

 

ステファンは注意深く言葉を選んだ。「そう言ってもらえてよかった。それなら、さぞかし腹立たしかったことだろう。わたしはきみのような壮絶な体験をしていないから、きみの気持ちを理解したとは言わないがね。

 

だが、わたしにはまだわからない。どうしてきみが、じぶんの主張をとつぜん百八十度転換して、人肉食業界に入ることになったのかが。わたしの見る限り、きみはどうしても、誰かへの当てつけで進路を決めるような人間には見えないから」

 

キャサリンはしばし思案し、それを見たステファンは慌てて付け加えた。「気を悪くしたなら申し訳ない。事実と異なっていたのならば謝ろう。だがこれが現時点での、わたしなりの分析だ」

 

キャサリンは口を開いた。「大丈夫よ。それで、わたしがなぜこの工場に来たか、だったかしら? えっと……そうね。人が人になるのは厳密にいつなのか、あなたは考えたことはあるかしら?」

 

「一般的には、母親の胎内から出たときだな」 それが、現代の常識。その常識に基づいて、人肉協会は食べても良い人間と、そうではない人間を峻別している。それが覆れば、人肉協会の活動ははるかに自由に、あるいははるかに窮屈になるだろう。「だが、きみはそうではないと」

 

「そう。わたしが思うに、人は誰かに育てられて、はじめて人になるの。母体から外に出てきたときじゃない」 キャサリンの声に熱がこもった。その熱は、みずから道を選び取ったものだけに許される誇りの熱気だった。キャサリンはさらに続けた。

 

「でもその違いは、この時代になるまで、まったく問題にはなってこなかった。ううん、そこに違いがあることすら、誰も知らなかった。なぜなら本来、人間という生物種は、誰にも育てられずに発育できるほど強くはなかったから」

 

キャサリンはステファンの理解を待ち、そしてステファンは理解した。「だがここでは、それができる。誰にも育てられず、生きるとは何かを知らず、それでもここでは、人間が生きていける。そういうことだな」

 

「そう。そして、その価値観に合った仕事ができるところは、この場所しか考えられなかった。それこそ、わたしがここを選んだ理由よ」