カンニバル食堂 37

「……ごめんなさい。こんなことを言われてもわからないわよね」 ばらばらに壊れた工作機械のような沈黙を、沈んだ声がやわらかに砕いた。その声は控えめで、だがその奥には、浮かされたような熱気が妖しく光っていた。

 

「あなたがやったのと同じように、わたしはあのとき、ひとりでこの工場に潜入したの。

 

わたしには、それしかないって信じてた。何よりも、わたしが組織で影響力を手に入れるために。そうして、組織の活動を、合理的で生産的なものに変えてゆくために。

 

その目的がただしかったのかは、今となっては分からない。けれど、やり方は間違っていた。だって、あまりに無謀でしょう? 今のあなたなら、こんな目に遭っているあなたなら、分かってくれるわよね?」

 

突然の指摘に驚き、ステファンは苦笑した。それは、キャサリンには似つかわしくない軽率さだった――そのことばは目の前の相手の気分を、とてつもなく害する可能性がある。だがステファンはむしろ、その率直さが嬉しかった。「ああ。わたしは失敗した。だからおそらく、無謀だったのだろう」

 

「……ごめんなさい。あなたの行動を否定するつもりはなかったの」 キャサリンの顔に焦りが浮かび、ステファンはそれを微笑ましく思った。

 

キャサリンは続けた。「わたしにはあなたの事情はわからないわ。だから、あなたも無謀だったって決めつけるのは良くなかった。身分を偽って工場に潜入するのは、あなたにとって合理的な行動だったのかもしれないわよね。

 

でも、わたしにとってはそうじゃなかった。たいていの場合は、そうだと思う。

 

でも、不思議なことってあるものね。そのときわたしは、偶然に救われたの。ちょうどあなたが偶然、わたしのいる部屋を開けたようにね。

 

その日はちょうど、軍との共同研究の発表会かなにかで、軍の関係者がたくさん工場を訪れている日だった。想像できるかしら、あのオフィスがいっぱいになるくらいにたくさんの人がいたのよ? だから、わたしみたいな部外者がひとり紛れ込んでいても、その日は誰も気にしなかった。

 

わたしは集会に紛れ込んだ。たくさんの真実を学んだ。そして最後に、その会もクライマックスになろうかというところで、わたしは見たの。

 

ほかでもない、肉人たちの実物の姿を。係員に誘導され……ううん、どうにか押し込まれて、と言ったほうが正確ね。とにかくそのとき、肉人が廊下を運ばれてきた。

 

おかしなことってあるものよね。守るべきものの姿を知らずに、なにかを守ろうとするなんて。恥ずかしいことに、わたしが肉人を見たのは、そのときが初めてだった。だからそれまで、わたしは知らなかったの。

 

意志を持たない、完璧に培養された人間が。

わたしが必死に守ろうとしてきたものが、こんなにも醜いものだっていうことを」