「閉じ込められた、だって?」 ステファンは立ち止まった。「きみは社員だろ?」
返事はなかった。まるで壊されたショーウィンドウのマネキンのように、彼女は横たわり、流されていた。
「どうした? 大丈夫か?」 ステファンは駆け戻った。そうできるだけの体力は、まだかろうじて残されていた。たどり着くと、ステファンは彼女を持ち上げ、ベルトコンベアの分岐に飲み込まれないように転がした。華奢な見た目からは想像もつかないくらい、その身体は重かった。
意識を失った身体は。純粋に、肉体性にのみ支配された身体は。
コンベアに引きずられ、彼女のワイシャツは不自然に乱れていた。先ほどまでは気づかなかったが、そのベージュのズボンには引っかかれたような穴があり、血が悪趣味に黒く固まっていた。
ステファンは彼女の顔を覗き込み、彼の顔に熱く蠱惑的な吐息がかかった。いちおう、彼女は生きてはいるようだ。だがそこにはあの機知も、怜悧さもなかった。その両目は赤く腫れあがり、それはおそらく、彼女があの部屋で泣きつくしたことをあらわしていた。
しかし、どうして?
ステファンは彼女の言動を思い出そうとした。自由だったころの記憶はすでに遠く、それは困難な作業だった。それでもステファンはなんとか思い出した、だがそのなかに、彼女が捕まるべき理由など見いだせなかった。記憶の中の彼女は有能で、忠実で、仕事への熱意を冷静に燃やし続けていた。
こんな人材を、捨ててしまうだけの動機が?
ステファンの膝の上で、キャサリンが目を覚ました。目覚めの瞬間、彼女は錯乱していた。「待って……ほんとうに、敵じゃないのよ……。あれ……どうしてあなたが? わたし、追いついた……のかしら?」
「きみは気を失っていたんだよ」 ステファンは、彼女の青い目を覗き込んだ。その目にふたたび、正気が宿ることを祈りながら。「たぶん、わたしの上に落ちたときの衝撃でね」
「えっと……」 とキャサリン。
「無理にしゃべるんじゃない。安静にするんだ」 ステファンは救急時の原則に従ったが、この状況の安静とは何なのか、じぶんでもよくわからなかった。
「あ……ありがとう」 キャサリンの目は依然として腫れあがっていたが、少なくとも、それは焦点を取り戻していた。「大丈夫よ……たぶん」
「本当にか?」
「本当よ。意識のほうは」 とキャサリン。そして、彼女は一呼吸おいて、こう付け加えた。「あの……あなたにあんなことをしておいて言うのは申し訳ないのだけれど」
「きみは職務上の義務に従っただけだ」 ステファンは言った。事実、彼女に恨みはなかった――この件に関しては、首を突っ込んだステファンが唯一、悪いのだ。
そして同時に、彼女のこの乱れた、飾る余裕のない姿に好感を覚えている自分に気づいた。「きみはなにも悪くないよ」
「ありがとう」 キャサリンは言い、そして頬を赤らめた。
「あの……わたしの、味方になってくれないかしら?」