いじりは不発に終わった。彼女が口ごもったり、めちゃくちゃな反論をしてくるところをぼくは期待していたけれど、返ってきたのは「そうだった」という単純なひとことだった。
「じゃあ、食べない理由はないね!」彼女は陽気にうなずき、スプーンをふたたびぼくに押し付ける。「いいこと教えてあげる。おいしいものは、なくならないうちに食べたほうがいいんだよ」そう言って、反対の手の指をびしっと立ててみせる。
その勢いに気圧されてぼくはつい口を開けてしまいそうになるが、すんでのところで思いとどまる。
「もしかしてですけど」呆れた能天気さだ、と思いながらぼくは尋ねる。「失礼ですが、先輩ってよく、天然とか言われません?」
「え? 言われないよ?」
「本当ですか? 今の感じ、絶対言われてると思ったんですけど」
「そう言われてもなぁ。あ、マイペースとか、不思議ちゃんとかは言われるけど」
「……それ、同じ意味ですよ」
「そうなの?」と先輩は目をぱちくりさせる。スプーンの上でアイスが跳ね、危うくテーブルに落ちそうになる。「天然、かぁ。なるほどね、なるほど」と言いながら、首がわざとらしい深さで何度も縦に振られ、そのたびに前髪がぴょこぴょこと揺れる。
「……もしかして、褒められたって思ってます?」
「え? べつにそんなことはないよ……多分。それよりほら、パフェ。早く食べないと溶けちゃうよ」
「はいはい」今度こそぼくは押し負け、バニラエッセンスの甘ったるい味が口じゅうに広がる。手付かずだったアイスティーにぼくは口をつけ、その味を中和する。その様子を彼女は、さっきまで自分が怒られていると感じていたとは思えないほどの幸せそうな顔で、じろじろと眺めている。
「それで、結局」ぼくは切り出す。今ならもう、怒っているなどと誤解されずに済むだろう。「泥団子なんて作ってたのは、その……なんのためだったんですか」そう尋ねながら、このひとのことだ、とくに理由なんてないんだろうな、とぼくは薄々感じている。
「うーん、なんでだろうな」彼女は手のひらを頬に当て、考えているような素振りを見せる。そして、どうしようもない、こちらが意志を喪失してしまうような答えを、元気よく叫ぶ。
「なんか、すごくおいしそうだったから!」