ヒロイン案2 ③

「ごめんって。もうしないから、許して、ね?」丸テーブルを挟んだ向かいで、先輩が懇願するように両手を合わせている。すらりと高い背中を窮屈そうに丸めて、カフェのドア風に横髪が揺れている。

 

「だから言ってますよね。べつに怒ってはないですって」ぼくはそうぶっきらぼうに言って、手付かずのアイスティーをストローでかき回す。「ぼくはただ、先輩がどうしてあんなことをしようと思ったのかが気になってるだけです。そもそもなんで、泥団子なんて作ってたんですか」

 

「だからごめんって。本当に反省してるんだよ、珍しく」そう言って彼女は、特大ベリーゴージャスパフェ(アイスクリーム追加)をひと匙、スプーンですくう。不必要な謝罪を並べながらも、巨大なグラスと口の間とを行き来する右手の動きは片時も止まらない。こいつ本当に反省してるのか、ということばが喉元まで出かかるけれど、すんでのところで、べつに反省してほしいとは思っていないということを思い出して思いとどまる。

 

 いや。そもそもなんで、こんな朝っぱらからパフェなんだよ。「お茶おごるからさ」って言って無理やり連れてきて、自分が一番楽しんでどうするんだ。

 

 そしてまた疑問が増えたことに気づき、ぼくはまたげんなりとする。

 

「そうだ」彼女は手を止め、これこそが完璧な作戦だ、と言わんばかりに大きくうなずく。そしてアイスクリームの乗ったスプーンの先を、ぼくのほうへ勢いよく差し出す。「これ食べる? おいしいよ」

 

「いりません。こんな朝からアイスはちょっと」

 

「いいって。遠慮しないで」

 

「本当にいらないんです。というか先輩こそ、よく食べられますね、そんな巨大なもの」

 

 先輩はスプーンを突き出したまま、「二十四時間三百六十五日、おいしいものは別腹だよ。だからほら、大丈夫だって」と言って、またぼくの口にそれをねじ込もうとする。ぼくは思わずのけぞり、反動で口からことばが出る。「全然反省できてないじゃないですか。ひとの口に予告なしでものを突っ込まないでください」

 

 言ってしまった、とぼくは思う。これじゃまるで怒ってるみたいだし、なにより先輩は、怒られることをなによりも恐れているみたいだった。そう考える必要はないと頭では理解しながらも、ぼくは内心、悪いことをしてしまったような気分になり、テーブルに視線を落とす。

 

 一瞬の気まずい沈黙。それを彼女が破った。「え? だってこれはおいしいし……」ぼくが顔を上げると、きょとんとした顔がそこにある。目をぱちくりさせるその様子を見ていると、なぜだか急に、彼女をいじってやりたいという気分が、発作のようにぼくを襲った。

 

だからぼくはにやりと笑うと、こう返してやった。「さっきだって言ってたじゃないですか。おいしいお餅だ、って」