俺は時差ボケなんてしない

ドイツから帰ってきて、疲れたということにして早く寝て、そのまま翌日の昼までぐっすりと寝ている予定でした。飛行機の乗客は三席の並びにわたしだけだったので、エコノミークラスの中途半端なリクライニングに頼る代わりに横になって、まるで布団で寝ているかのようにしっかり寝られたとうそぶいていました。飛行機の三席にはわたしの身体は微妙に長くて、まっすぐ寝ようとするとどうにも足首から先の部分が通路にはみ出してしまうわけなのですが、それはまあジュースのワゴンに引っかかったら嫌だなとかトイレに立ったひとを転ばせてキレられたら大柄な北ヨーロッパ人にはとてもかなわないなとかそういう些細な心配をして、身体の配置にはずいぶん苦労しました。仰向けになったり横向きになったり、足を上に曲げてみたり降ろしてみたり、その過程で両端の上がらないひじ掛けに頭をぶつけたり、そんなことをしているうちに結局朝食の時間になり、そのときようやく、並んだ空席を見たときに感じた睡眠への期待がまったく裏切られたことを自覚しました。

 

普段からおかしな時間で生活しているから時差ボケはしない、というのも嘘でした。それも別にドイツ時間の夜に眠くなるわけでもなくて、というかそれなら日本でしていた生活とそんなに変わらないんですが、とにかく夜じゅう、なんか眠れませんでした。機内で寝られない、帰ってきても寝られない、けれどいまのわたしは全然眠くない。寝られないままになぜだか、疲れだけが取れているというわけです。

 

さあ、まあ、時差ボケとはなんなんでしょうね。一日で七時間生活時間をずらせ、とただ言われたのなら、わたしはできます。できる自信があります。前にでも後ろにでも、できます。単に早く寝て早く起きるか、普通に寝て遅く起きるかすればいいだけなんですからね。けれど海外から帰ってきたあととなると、なぜだかすごく変なことになるのです。普段のわたしでは考えられないことなんですが、とにかく、寝ようとしても寝られない。

 

だからきっと、時差ボケの原因は時差じゃないんですよ。海外から帰ってくると、自動的にそうなる。たぶん長距離移動のせいとかまだ緊張の名残が残っているせいとか、そういう理由で。

 

そういえば、時差の少ない海外だってあるんですね。そういえばタイとベトナムとオーストラリアに行ったことがあったんでした、忘れてました。そのとき時差ボケしたかどうかは、全然覚えていません。どうせなんか、時差がないんだから時差ボケなんてするわけがないとかうそぶきながら、結局は寝られなくなって困ったりしてたんだと思います。

 

せっかくだし、今度近場の海外に行ったら検証してみましょうか。帰った後、睡眠がおかしくなるのかどうか。