カンニバル食堂 27

ベルトコンベアが行き止まり、ステファンの旅路の終わりを告げた。

 

「畜生め」 ステファンは悪態をついた。

 

ボブたちのもとへ帰りつく手がかりは、いまや完全に失われていた。

 

いや、そんなことはだいぶ前から分かっていた。ステファンは夢想家ではない。すべての分岐を偶然正しく進んでいた確率など、計算せずとも非現実的だと分かる。

 

だからこそ、ステファンはある種の驚きをもって自分自身を見た。現実主義者を自称しながらも、コンベアを逆走し続けるこの狂った旅路で、ステファンを駆り立てていたのはまさにそれだった。ほかでもない、この絶望的な希望の確率だ。

 

さきほどまで、ステファンの内心はこうだった。もしかすると、この先にボブがいるかもしれない。また馬鹿を言い合いながら、それでも企てを前に進められるかもしれない。ステファンに思いつかなかったような解決策を、導いてくれるかもしれない。

 

だがここに、ボブはいない。ステファン自身が、置いてきてしまった。

 

「次の住処はここ、か」 いまや、ステファンを取り巻いているのは圧倒的な現実だった。時を巻き戻す希望が失われて、ステファンははっきりと認識した。いまや自分が閉じ込められているのは、例の単純な部屋ではなく、この複雑怪奇な機械の絡み合いの中なのだと。

 

天井のライトが点灯し、配管の灰色を異様に目立たせた。その管の行先をたどると、そこには黄色い箱が、どのコンベアからも一定の距離を保って佇んでいた。箱には鍵がかかっていて、ここを通る個体が、誤って触ってしまわないようになっているようだった。

 

ステファンの前方で、ライトがひとつひとつ点灯していった。ステファンの後方で、ライトがひとつひとつ消えていった。

 

「ギュルル」 ひとつの音。和音とも不協和音とも取れない駆動音の中、それはやけに印象的に響いた。その音は機械ではなく、ステファンの腹部からなっていたのだ。そしてはじめて、ステファンは空腹に気づいた。

 

すなわち。「策を見つけなければ。わたし一人で」

 

そしてそれは、思いつく限り、ひとつしかなかった。

 

ステファンは近くに、上から流れ降りてくるコンベアを見つけた。あいにく、それは今乗っているコンベアではなく、隣のコンベアにつながっていた。ステファンは金属の柵を乗り越え、隣のコンベアに飛び移った。踏み切る寸前、腰の痛みにバランスを崩したが、なんとか膝にあざをつくるだけで済んだ。

 

ステファンはコンベアを逆走し、上へと向かった。そこは行き止まりで、だが横にはボタンがあった。そのボタンは、例の部屋の床を開くために、アンナが押したらしきボタンと同じだった。

 

ステファンはボタンを押した。息を切らし、彼を下に戻そうとするコンベアに逆らいながら、ステファンは必死で上を見た。推測がただしければ、扉が開くはずだ。あの部屋とそっくり同じ扉が。

 

そして、その通りになった。成功の余韻に浸る間もなく、ステファンは扉の縁に手を掛けた。両腕に渾身の力を込め、ステファンは身体を持ち上げて。

 

その部屋の中の、醜悪な景色を垣間見て。

 

そして、そのとき、警報がけたたましく鳴り響いた。