カンニバル食堂 28

洪水のように、全裸の人間が押し寄せた。

 

なにかに顔を蹴られ、ステファンは倒れた。先ほど痛めた腰をふたたび地面に強打し、ステファンは思わずうめき声を上げた。

 

その間にも、ステファンの開けた扉からは大量の個体が流れ出してきていた。小さく、しかし大量の足がステファンの顔を、みぞおちを踏みつけた。そのたびにステファンは身体をよじろうとし、だがそのためのスペースはなかった。

 

「クソッ」 ステファンは叫び、渾身の力で起き上がろうとした。そして持ち上げた頭を、また足が蹴った。ステファンはなんとか右腕を持ち上げ、いまも頭上に居座るその若年個体を押しのけた。

 

その群れはおびただしく、醜悪で、そして臭かった。ステファンは鼻を覆おうとしたが、両手はつねに、つぎつぎと迫る重石を全身から払いのけるのでいっぱいだった。押しのけた個体の腹部をかかとが踏み、ステファンはえずいた。そして開いた口の真上に、別の個体が尻餅をついた――排泄物の付着したままの尻で。

 

依然として、警報は鳴り続けていた。

 

ステファンは右足を振り上げ、それはいずれかの個体に当たった。それはよろめいて、コンベアの端の仕切りに鈍い音を立てた。ステファンは右手でその足を掴むと、渾身の力で持ち上げた。それは干された布団のように仕切りにまたがり、なにかに髪をはさまれて奈落へと落ちていった。

 

「この野郎!」 汗と悪臭の格闘の末、ステファンはどうにか上体を起こした。ステファンの目の前に、無数の醜悪な顔の世界が広がった。

 

見たところそれらはみな七歳ほどの人間のオスで、髪は伸び切り、顔はできものだらけだった。全裸の身体のいたるところにゴミが付着し、ステファンにはそれが食べカスなのか、それとも排泄物なのか区別はつかなかった。

 

ステファンは最近見た映画のゾンビを連想した。臭う身体、意志のない顔。おびただしいことにおいて、それらはゾンビと酷似していた。だが、それらはゾンビではなく、そしてゾンビよりも気味が悪かった。奇妙なことに、その両目の焦点はみな、どこかも知らぬ一点に合わされているのだ。

 

存在しそうで、存在しない意志。人間のようで、人間ならざるなにか。

 

「そろそろ、か?」 全身への衝撃が収まってきた。谷底に下り落ちるかのように、意志のないままに、個体たちはそれぞれの立ち位置を見つけたようだ。ステファンは難なく立ち上がり、そして別のコンベアが隣を通るのを待った。

 

それが来ると、ステファンは仕切りを乗り越えて、無人のコンベアへと移った。そしてしばらく待ち、解放した個体があらかた通り過ぎると、再び仕切りを乗り越え、元のコンベアへともどった。そして、先ほど開けた扉から、おそらくは無人となっているはずの、新たなる監獄へと身体を持ち上げた。

 

おそらく、無人の。

 

だが、そこは無人ではなかった。そして、いるのは全裸の七歳の個体ですらなかった。

 

ステファンが顔を出すと、そこにはキャサリンが、困り果てた表情で佇んでいた。