非信仰告白

ありがとう、どこかの詐欺師さま。わたしなんかが、生きていける社会を作ってくださって。基礎研究が未来の役に立つと言い張ってだました投資家たちが、なんの役にも立たぬ研究に投資をしてくれる、そんな国を作ってくれて。これに投資しないと国が滅びるとか、基礎研究の価値を分からないやつは近視眼的な馬鹿だとかハッタリを言って、投資家たちがひっかかったままでいつづけるようにしてくれて。

 

本来ならわたしだってその輪に加わるべきなのかもしれません。だってわたしたち共犯でしょう。あなたがたの作ったその文化、無色を朱だと言い張るその文化のうえで、わたしはごはんを食べています。だからわたしは黙っています――わたしたちのすべてが役立たずと知ってはいながら、それが無駄な予算なのだと大っぴらに主張して、都合の悪い公正さを世にもたらそうという試みに手を付けないでいます。悪の存在を知っていて黙っているひとだって、やっぱり悪の味方なのです。

 

残念ながらわたしは、あなたの嘘を信じ切れません。優秀なペテン師であるあなたたちのことばに、身も心も奉じることができません。けれど、信じていられたのならどんなによかったかとも思います。この身を奉じられたのなら、わたしだって協力できたでしょうに。あなたがたほどに優秀で、世の中を動かして不安定な状態に固定する、そんなペテン師にわたしがなれるとはとうてい思いません。けれどそのお手伝いなら、できたかもしれないのです。アカデミアという教義の末端の信者として。科学というカミサマへの信仰をまわりのひとたちに広め、献金を募るくらいのことなら、できていたかもしれないのです。

 

わたしは不器用な人間です。本音でぶつかり合う以外に、能のない人間です。ですから確信していないことは、なかなか実行に移せません。心から信じていない考え方を、ほかのだれかに信じさせることもできません。基礎科学は役に立つという信仰を唯一の真実だと信じることのできないわたしは、だから布教に協力することができません。ほかのだれかを入信させることも、どこかのだれかに献金をせびることも、わたしにはうまくできません。

 

だからわたしは、感謝以上のことを申し上げることはできないのです。わたしを生かしてくれるあなたがたの嘘を、ただありがたく思う以上のことは。申し訳ありません、白状します。偉大なるペテン師さま、あなたがたへの感謝のしるしを差し上げたい気持ちはやまやまなのですが、いったいなにをお渡しすればいいのか、まったく見当もつかないのです。論文を書けばそれでよろしいというのでないのなら、おそらくわたしには、なにも貢献することなどできやしないのです。あなたがたの作り上げた、壮大なフィクションのカミサマへと。