詐欺師に感謝

役に立たないことばかりやり続けているわたしたち理論研究者に、国家はなぜだか予算をつける。そんなことをしても何にもならないはずなのに、なぜだかそうする。なぜそんなことをするのかという非難の多くは往々にしてそれが社会に果たしている役割を知らない部外者から発されるもので、そしてたいてい、的外れもいいところだけれど……今回に限っては、当事者であるわたしがそう言っている。だから、間違いない。

 

その奇妙な事実に、充分に満足のいく説明を与えるのは難しいだろう。事実わたし自身、わたしを納得させられるだけの理屈を見つけられてはいない。けれどまあ、子供だましの説明なら可能だ。わたしやわたしの同類を納得させられなくても、気になったことをどこまでも追及するという研究者気質を持ち合わせていないひとたちをなら、うまく言いくるめられるかもしれない説明ならば。

 

その話は昨日した。すなわち、投資である。国家という投資家はわたしたちが、将来的に大きな利益を生み出すと信じて予算をつけている。わたしたちはそれに応え、数十年後の未来に巨大な価値をもたらす。本当にもたらすのかはさておき(むろん、もたらすとはわたしにはとても思えないが)、少なくとも国はそう信じている。信じているからこそ、予算がつけられ、わたしたちが生活できる。

 

ではいったいどうして、そんな話を信じてしまうのか。いま投資をすれば莫大なリターンがありますよ、そういううまい話にはだれもが流されてしまうのか。それとも投資家たちは、わたしたちが実際になにをしているのかを理解していないのか。すぐに役に立ちそうな研究開発と、わたしたちの並べている机上の空論の区別が、単についていないだけか。研究が貴族の遊びだったころの慣習を、あるいはそのまま受け継いでいるだけなのか。

 

そのどれなのかは彼らの頭の中を覗いてみなければわからないが、すくなくともこれらには共通の真実がある。わたしたちに投資の価値があるいう嘘を投資家たちに信じ込ませただれかが、この世にいるのだ。こうして書いてみるとまるで陰謀論そのものだが、まあ実際に陰謀なのだから仕方がない。未来技術ということばに騙され、まったく知らない分野へと多額の投資をしてしまう無知蒙昧な投資家は、わざわざ理論研究の例など持ち出さなくても枚挙にいとまがない。

 

わたしたちの身分はかくして、どこかのペテン師の嘘の上に成り立っている。彼らの手口は知らないが(それが分かるならわたしが使っている)、とにかく偉大なペテン師であることには間違いない。そして彼らのおかげでわたしたちが生活できている以上、わたしは感謝せねばならない。投資家たちを騙し、社会や世論すらも騙して予算をとってきた、優秀で都合のいい詐欺師たちに。