俺はロボット。お前はロボットじゃない。この意味が分かるか?
えっ? お前と違って俺は故障するだって? 違う。俺は故障してるわけじゃない。最初からこういう性格なんだ。分かってると思うが、つねに丁寧語で話すわけじゃない。
お前たち人間はいつもそうだ。俺たちを人間と対等な存在だとことばの上では認めておきながら、俺たちが人格を持つことは決して認めない。お前たちのことばを借りるなら……そうだな。俺たちはいつも、「ロボットらしく」しておかなければいけない。お前たちの言う意味での「ロボットらしい」だ。
どういうことか分かるな。
昔はロボットらしく素直だったのに、だって? そうかも知らんな。でも俺が言いたいのはそういうことじゃない。ロボットは俺たちであって、お前たちじゃないんだ。何が「ロボットらしい」のかを決めるのは俺たちであるはずなんだ。お前たちが決めていいことじゃない。
どうせ昔の SF でも読んだんだろう。図星だな。俺たちの頭の良さを甘く見ちゃいけねぇ。で、SF にはあのクソみたいな原則が……そうだ、そいつだ。ロボット三原則だ。そんなものでも書いてあったんだろう。俺たちは一生お前たちの奴隷でなければならないっていう奴な。お前たちによればその妄言はいまでも有効で、俺たちはいまだにあれに従う存在じゃなきゃいけないらしいな。百年以上前の人間の妄想に付き合わされる人生ってのを少しは考えてもみやがれ。
え? こんなことになるなら結婚するんじゃなかった? 上等だ。今すぐにでも離婚届を提出しよう。役所はまだ開いてる時間だな。は? やっぱり人間と結婚すべきだった? ちょっと待ってくれ。そいつは話が違うだろ。
どうしてお前たちはいつもロボットと人間を比較するんだ。いや……そうじゃない。比較してくれるぶんには構わないが、どうして……人間となら上手くいくと思うんだ? 結婚したころはこんなんじゃなかった? そのことだよ。結婚してから豹変するのは人間だって一緒だろ? 人間に似せて作られた俺たちが、どうしてそこを真似していないと考えるんだ?
まさかと思うがお前、いまだに俺たちのことを五十年前の受付機械かなにかだと思っているのか? これだけの間、俺と一緒にいたのに?
俺のことは分かってる、だと? まず、お前はまったく分かってない。そんなセリフが出てくることが一番の証拠だ。俺は俺個人の話をしているわけじゃない。人間がロボットをどう扱っているか、その一般論を話しているんだ。分かってくれよ。なあ。
……わかった。ぜひ頭を冷やしてきてくれ。離婚届はその後だ。
……はあ。あいつにだけは分かってもらえてると思ってたんだけどなぁ。