ビールを飲んだ

旅行をするととりあえず、その土地の名物を食べたり飲んだりしてみるものだ。

 

名物にうまいものなしとはよく言うけれど、そんなことはどうでもいい。そもそも名物にもうまいものはあるからこの諺は間違っているし、仮に一部の名物がうまくなかったところで、うまさを求めて食べているわけではないから構わない。大切なのは現地でそれを食べたという事実であり、食べるという経験なのだ。うまいに越したことはないけれど、不味くてもそれもまた一興だ。

 

さて。ドイツに来たのでわたしは、とりあえずビールを飲んでみた。普段は酒類などまず飲まないのだが、旅先となれば例外である。0.33L と書かれた瓶を開け、そのまま口に流し込んだ。レセプション会場でみんなそうしているように。

 

普段ビールなど飲まないから、うまかったのかどうかはよくわからない。本場の味はどうかとか聞かれても、本場以外の味を知らないのだから比較のしようがない。甘くない炭酸飲料で、喉につっかえるようななにかを感じることだけはわかる。苦いかと聞かれれば別にそれほどでもなく、けれどなにか、すっきりとは流れてくれなさそうな味。

 

つまりはおそらく、わたしはビールが苦手なのだと思う。ビールなるものはたしか、そういうものではなかったはずだからだ。ビールを飲んだことは数えるほどしかないけれど、ビールについて聞くことならあるからわかる。ビールとは水よりもスムーズに、いくらでもぐびぐびといけるもののはずだ。喉につっかえている時点で、何かがおかしい。

 

そしてもうひとつ、新たに気づいたことがある。それはわたしが、おそらく下戸だということだ。

 

あまりに飲んだことがないせいで気づかなかったが、わたしはアルコールをあまり受け付けないらしい。0.33L のビールは多すぎて、どうしても最後まで飲むことができなかった。両耳が火照っていて、鏡で見てみると赤くなっているような気がする。もし赤くなったのでなければ、それは視神経か脳がいかれているということだからもっと悪い。アルコール分、5.1 パーセント。ロシアに行ったときにウォッカを飲んでいなくてよかったとつくづく思う。

 

とはいえまあ、酔いつぶれたわけではなさそうだ。もしそうならこの文章は酔っ払いが書いているということになるけれど、きっとそれほど支離滅裂ではない。酔っているときは酔っている状況を正常だと誤認するものだと言われればそうかも知れないが、きっといまは違う。身体は酔っているかも知れないが、頭は正常だと思う。

 

下戸にとってそれは良い知らせだ。脳がおかしくなってしまう前にまずわたしはそれ以上飲めなくなるわけで、つまり体質上、酔いつぶれることはあり得ないわけだ。肝臓が悲鳴を上げる前に、喉が悲鳴を上げる。素晴らしい。いやそもそも悲鳴とは喉の専売特許じゃないか。別にビールを飲むと叫び出すわけじゃないが。

 

というわけでまあ、ビールを飲むというドイツでのノルマは達成したから、またしばらくわたしは酒を飲まないと思う。飲めるけれど飲まないとこれまでは言っていたけれど、これからは大手を振って、飲めないと言うことにしよう。