二次元美少女ヴィーガンポスター

ヴィーガンとかその手の思想が二次元美少女のアイコンを掲げているところを、そういえばわたしは見たことがない。

 

この文を読んだあなたは、わたしの頭がおかしくなったように思っているかもしれない。そんなことあるわけないじゃないかと言って笑うかもしれない。わたしはその感性を否定するつもりはないし、笑いたいなら笑っていただいて構わない。けれどしかし、合理的な説明は可能だろうか?  ヴィーガンと二次元美少女の間に、なんのリンクも見出せないということに関して?

 

……いや、失礼。説明しろと言ったつもりはなかった。どうかいきり立たないでほしい、あなたがたを煽ったわたしが悪かった。悪かったからどうか、自説を開陳するのはやめてほしい。どうか黙って、あとを聞いてほしい。説明などあり得ないみたいなことは言ったけれど、それらしく聞こえる説明ならわたしにもできるのだ。ただそれに確信に至るまでの説得力はなく、あなたがいましようとしている説明と同じくらいのものでしかない、というだけで。

 

話を戻そう。ヴィーガンの思想を伝えるための二次元美少女ポスターというものを、きっとあなたは想像できるはずだ。それを世に出せばどんな反響があるか……といった問題はさておき、ヴィーガンにも美少女性にも矛盾しないかたちで、それは想像しうるもののはずだ。そう難しいことではない。ただひとりの純朴そうな少女が青空と大自然をバックに、「動物さんを食べないで」とか言っているだけの代物を想像してくれればそれでいい。あるいは牛柄のコスプレをした少女が、首から上を切り落とされて屠殺場の鉤にかけられている血まみれのアニメ絵か。

 

そういったポスターは、宣伝と呼べるものではあるはずだ。メッセージと、それを効率的に伝えるための画像の組合せとして成立しているはずだ。そしてヴィーガンがけっこうメジャーな思想であるのと同様に、二次元美少女もけっこう、宣伝技法の中ではメジャーな部類に入るはずだ。

 

にもかかわらず、わたしはその組合せを見たことがない。

 

こういうときはたいてい、なんらかの理由があると考えておいたほうがいい。さもなくば実際にこういうポスターを作って公開し、全方面から怒られる羽目になる。なぜ怒られるのか、と聞かれればうまくは答えられないが、なぜ怒られるのかわからないことなんて世の中にはたくさんある。理由を聞かれても困るのだ。とにかく原則として、なにかがブルーオーシャンに見えたのなら警戒したほうがいい。それはきっと、ブルーオーシャンではないから。ヴィーガンと二次元美少女を組合わせる程度のことを誰も思いついていないわけがないのだ。

 

むしろ考えるべきは、それらが組合せられない理由ではなく、それらが組合せられないようにわたしが思っている理由だろう。そうすれば怒られるだろうとわたしが思っている理由、賞賛よりもはるかに多くの非難が降りかかるだろうと考えるだけの理由だ。そこには間違いなく、わたしの持つ偏見が隠れている。ヴィーガンに動物性食品を食べないということ以外に持っていると思われる傾向、そしてオタクが美少女を愛すること以外に持っていると思われる傾向に関する固定観念が。

 

だって本来の思想としては、ヴィーガンと二次元美少女はまったく矛盾しないはずなのだから。