全自動鶴折りマシーン ⑨

チカがこの遠足、もとい課外活動に参加したのは、双子の兄のことを考えてだった。

 

先月。課外活動の行先を選ぶため、チカはシラバスとにらめっこしていた。

 

これは面白そう、こっちは飛行機代がかかるからダメ……とかいろいろ考えながら、いつまでも決められずにいると、風呂上がりのカケルがリビングに入ってきた。

 

「何見てるんだ?」髪から水を垂らしながら、カケルは言った。

 

シラバス」いったん目を上げ、チカは答えた。

 

シラバス? ああ、課外活動のね。もう決めた?」

 

「決めてない。選択肢が多くて。こんなにたくさんあって、本当に学生は集まるのかなぁ」

 

「ははっ。下手なのを選んだ奴は、教授と二人旅だったってよ。サークルの先輩がそれで……」

 

「うわっ。きつそう」チカは思わずうめいた。

 

「いやいやチカさん。日本一その道に詳しい教授とじっくり話せる、かけがえのない機会でございますよ」わざと畏まって、カケルはガイダンスの先生の真似をした。

 

「もう、やめてよ」チカは笑いながら話題を戻した。「カケルは決めたの?」

 

「決めてない。面倒くさいから、チカが決めてよ。チカの行きたいところでいいから」カケルは冷凍庫を開け、アイスクリームを探した。

 

「もう。わたしが決められないことくらい知ってるでしょ」チカは言い、そして気づいて笑い出した。「もしかして、同じところに行くって思ってる?」

 

カケルはしばし固まって、小声で「あっ」と言うと、そそくさと自分の部屋に帰っていった。

 

このとき、チカの中でひとつの疑問が解けた。

 

これまでチカは、自分たちにまわりの学生が向ける視線について不満に思っていた。わたしたちは単なる双子、そうチカは思っていたし、高校生の頃は実際にそういうふうに扱われていた。それが当然だと、ずっと思って生きてきた。

 

でも恋愛脳の大学生は、わたしたちをまるで、同棲しているカップルかのように扱ってくる。同じ大学に決まったから一緒に住んでいるだけだと何度説明しても、一向に理解してもらえない。そこまでして、誰かと誰かが付き合ってることにしたいのだろうか? それも、血のつながった兄妹を?

 

しかし。どうやらわたしたちは、普通の双子に比べて、少しばかり仲が良すぎるのかもしれない。

 

……じゃあ。課外学習の行先にはわざと、カケルが行きそうにないところでも選んでしまおうか。

 

そう思って、チカはシラバスを見返した。カケルの行きそうにないところはまあ、いくらでもある。要するに、意識が高すぎるところ(カケルに言わせれば、「大学生らしくない」ところ)か、提出するレポートが重すぎるところだ。そういうところから、わたしが一番行きたいと思えるところを選んでやろう。それでもカケルは、一緒に行くと言うだろうか……

 

……三十分後。チカが知ったのは、そんなところはないということ。

 

そして、自分とカケルの好みをいかに似せられるかという、血縁と環境の力の強大さだった。

 

だからチカは開き直って、東京の折り鶴ツアーを選ぶことにした。カケルが前々からひそかに欲していた、東京の地を踏む機会を。