全自動鶴折りマシーン ⑥

「復興への祈りです」女性の声には、妖艶に浮かれた熱がこもっていた。

 

「街を復活させるためには、祈りが大切です。

 

どんな技術や、どんな労働力にもまさるもの。それは、大勢の祈りです。戦災跡地との絆です。復興を本気で信じる心です。

 

それさえできれば、結果は必ずついてくるのです。必ず、です。

 

ですが祈りには、統一された象徴が必要です。皆の想いが向かう先が。一定の方向が。祈りが役に立つには、行先が正しくなければなりません。もし祈りが、ばらばらの方向に捧げられれば、未来を変えることはできないでしょう。

 

だからわたしは、種を撒くことにしたのです。


あなたの仕事は、道標を建てることです。大勢を同じ祈りに導く道標を。もっとも優秀な職人であるあなたにこそ、できる仕事です。


易しい道ではないでしょう。祈りを続けられなくなりそうなときも、あるかもしれません。ですが正しく祈れば、何事も成るのです。東京はかつての輝きを……いや、かつて以上の輝きを獲得するのです!


あなたも、そう思いますでしょう?

 

わたしが仕事を依頼するのは、あなたに、復活した東京の先頭に立ってほしいからです」


女性は演説を終え、サングラスの下に汗がにじんだ。世界そのものを伝授し終えた教祖のように、彼女は疲れ果てた満足感に浸り込んでいた。


正直言って、紙原には意味がわからなかった。彼女の話は、ちっとも頭に入ってこなかった。たかが祈りのために、こんな大金と労力を? この女はやはり馬鹿じゃないだろうか? その金で、巨大なハコモノでも作った方が、まだマシなんじゃないだろうか?


現実を変えるのは感情ではなく行動だ、と彼は信じて生きてきた。こんな意味不明な演説では、信念は到底変わりそうにない。

 

あまりに意味が分からなかったから、紙原はその他の可能性を探った。もっぱら、詐欺の可能性を。だが詐欺だとしても、どうにもつじつまが合わない。


だってそうだろう。巨大な千羽鶴に、祈り以外の意味がどこにある?

 

だが。


「……わかった」紙原は不承不承頷いた。まったく納得できるところはなかった、だが目の前の金は、納得できないからと言って断れるようなものではない。「あなたならそう言ってくれると信じておりましたわ」女性は言うと、鞄から書類を取り出した。「こちらが仕様書です」


「それでは、半年後にまた来ますわ」そう言うと、女性はあっけなく去った。


積まれた金と書類を前に、紙原はただ呆然としていた。遠くでサイレンが鳴り、夕方の訪れを告げた。わけがわからない。だが。


やるしかない。紙原は金をしまうと、仕様書を広げた。明日、この金の一部を鑑定に出そう。それで本物なら、仕事にとりかかろう。


工場の命運を、がらりと変えるかもしれない仕事に。